私たちの身体には尿酸というものがあります。尿酸の濃度は血液で測定します。いろいろな理由で血液中の尿酸の濃度が高くなって、7.0mg/dlを超えた状態を高尿酸血症と言います。血液の尿酸値が7.0mg/dlを超えて、さらに高い状態が長期続くと、関節の中に尿酸が固まって結晶となって、沈着し続けるようになります。痛風は、関節の中に尿酸の結晶が溜まり続ける状態を特徴とします。尿酸の結晶が関節の骨と骨の間(関節腔)に剥がれ落ちると白血球が攻撃します。こうして起こるのが痛風発作です。
痛風発作は足の親指の付け根に最も多く、他には足首や膝にも生じます。痛み出してから多くは1日以内に激しい痛みになり、歩行困難になることもありますが、14日以内には軽快します。痛風発作はよくなっても、関節の中には尿酸の結晶が溜まり続けるので、痛風発作はほとんどの場合再発します。当初は年1~2回程度の頻度ですが、放置すると次第に頻発・慢性化します。さらに、尿酸の結晶の塊が大きくなり、皮下にも認められるようになります。これを痛風結節といいます。慢性関節炎や痛風結節の頻度は低いですが、これらのために関節組織が損傷を受けることがあります。
高尿酸血症の程度が強いほど、また、高尿酸血症の期間が長いほど関節の中に尿酸の結晶が溜まりやすくなります。この結晶の塊が多くなると痛風発作が生じると考えられています。ですから、高尿酸血症の中で痛風に至るのは10%くらいです。
血液中の尿酸値はそもそも男性の方が女性よりも高いので、痛風はほとんどが男性です。日本では現在痛風の患者数は男性では増加しています。女性は数%以下であり、増加しているという証拠はありません。中年の頃発症することが多いですが、20歳台でも珍しくはなく、高齢になってから起こることもあります。
痛風が進行すると腎機能障害を伴いやすく、尿路結石も2割程度に合併します。メタボリックシンドロームでは尿酸値が高いことが多く、したがって、痛風でもメタボリックシンドロームやそれに関連する疾患(高血圧、脂質異常症など)の合併が多くなります。
痛風発作は臨床的に診断することが多いですが、痛風発作を起こしている関節のなかでは尿酸の塊がもとになって炎症が起きているので、関節穿刺をして特殊な顕微鏡でこの状態を見ることができ、診断につながります。最近では関節超音波検査やduel-energy CTという特殊なCTでも尿酸の結晶の塊を検出することができ、診断の補助として用いることがあります。
痛風発作は最初は14日以内に改善しますが、きちんと治療しないと、関節組織が損傷を受けます。関節の中の尿酸の塊は尿酸降下薬により溶かすことが可能です。痛風は治癒に持ちこむことが可能な疾患です。
痛風の治療
関節の中に溜まった尿酸の結晶によって痛風発作が引き起こされます。痛風発作は痛風の最も頻度の高い症状です。多くの場合、その痛みは日常生活に影響を与えるほど強いので、14日以内に軽快するとはいっても、痛みを早く消失させる必要があります。このためにいくつかの抗炎症薬が使われます。しかし、抗炎症薬で痛みがとれても、関節の中には尿酸の結晶が残っており、時間がたつとさらに増えてきます。結晶を溶かすことで結晶量が十分に減少すると痛風発作は起こらなくなります。このために尿酸降下薬を用いて血清尿酸値を低下させます。痛風の治療は①抗炎症薬による痛風発作の改善、②尿酸降下薬による関節内の結晶の融解、③生活習慣の改善、の3つから成ります。
1)抗炎症薬による痛風発作の改善
痛風発作に用いる薬物には非ステロイド抗炎症薬(NSAID)、コルヒチン、ステロイドの3種類があります。これらの効果は一般にはほぼ同じと考えてよいです。患者さんの合併症や服用中の薬剤を考慮して3種類の中から1種類を選択します。たとえば、胃潰瘍の既往がある場合はNSAIDは避けるようにしています。以前の痛風発作で有効だったものを選択することもあります。ステロイドは経口薬以外に、筋肉内投与や関節内投与が可能です。重症の痛風発作の場合には、NSAIDとコルヒチン、あるいはコルヒチンとステロイドを併用することがあります。
2)尿酸降下薬による関節内の結晶の融解
尿酸降下薬を用いて、血液中の尿酸値を6.0mg/dl以下に長期維持することにより、関節内の尿酸の結晶を融解させることが可能です。尿酸降下薬は少量から開始して、血液中の尿酸値6.0mg/dlを目標に増量します。関節の中の尿酸の結晶量がかなり減少すると痛風発作は起こらなくなります。完全に消失すると痛風は治癒したことになります。関節内の尿酸の結晶は簡単には溶けないようです。これまでの研究では尿酸値6.0mg/dl以下を目標にして治療すると、4〜5年目たつと痛風発作を起こす人がいなくなったと報告されています。尿酸降下薬を服用して血液中の尿酸値を6.0mg/dl以下に何年間維持すれば服用したら中止できるかは、まだわかっていません。尿酸降下薬を中止しても尿酸値が再度上昇すれば、痛風発作が再発するリスクが高くなります。痛風は治癒できる疾患ですが、関節内の尿酸の結晶が無くなったことを示すことができる検査方法は今のところありません。これらの理由から尿酸降下薬は生涯続ける必要があると言われます。しかし、十分な期間(5年を目安とする意見もあります)、尿酸値を6.0mg/dl以下に維持できていれば、担当医と相談のうえ、中止してみてもよいかもしれません。
痛風なら全員が尿酸降下薬を服用しなければいけないかというとそうでもありません。痛風発作の回数が多い場合や、痛風発作の持続期間が長い場合、痛風結節があったり、腎障害や尿路結石がある場合は、尿酸降下薬を服用すべきです。しかし、痛風発作が1回のみの場合は、後述する生活習慣の改善で様子を見てもよいかもしれません。
尿酸降下薬は尿酸排泄促進薬と尿酸生成抑制薬の2種類に大別されます。前者にはプロベネシド、ベンズブロマロン、ドチヌラドがあります。後者にはアロプリノール、フェブキソスタット、トピロキソスタットがあります。腎機能障害や尿路結石がある場合、尿酸の産生が多くて高尿酸血症になっている場合には尿酸生成抑制薬を優先的に用います。併用薬や合併症も尿酸降下薬の選択に影響することがあります。尿酸排泄促進薬を投与すると尿中尿酸排泄が亢進します。尿中で尿酸が固まると尿路結石になるために、水分を多めに摂取し、尿アルカリ化薬を併用することもあります。どの薬剤を選択するにしても、血液中の尿酸値をできるだけ6.0mg/dl以下に維持することが重要です。1剤で効果が不十分な場合は尿酸排泄促進薬と尿酸生成抑制薬を1剤ずつ併用することもあります。
尿酸降下薬を用いて、関節の中の尿酸の結晶が融解するのは、結晶周囲の体液中の尿酸値が下がるからです。しかし、場合によっては、融解する前に結晶の塊が剥がれてしまうことがあります。そうすると、痛風発作が起こります。尿酸降下薬投与後にはしばしば痛風発作が起こります。また、尿酸降下薬を投与しても関節の中の結晶はすぐに減るわけではありません。結晶の量が多い間は痛風発作は起こりえます。尿酸降下薬を服用しているときに痛風発作が起こっても抗炎症薬を一時的に併用すれば改善します。そして、血液中の尿酸値を6.0mg/dl以下に長期維持していれば、痛風発作は起こらなくなります。
3)生活習慣の改善
最近では疫学調査が進み、痛風発症のリスクを高める食品、低くする食品などがわかってきました。痛風発症リスクを高める食品としては肉類、魚介類、果糖・砂糖を含む清涼飲料水、アルコールがあります。肉類、魚介類にはプリン体が多く含まれます。プリン体が代謝されると尿酸になります。これらの食品を食べ過ぎるのはよくないですが、これらは重要な蛋白源でもあるので過度の制限は不要です。一人前であればかまいませんが、内臓類はプリン体を特に多く含むので避けましょう。果糖については、生果実よりも清涼飲料水が問題です。アルコールではビール、蒸留酒ともにリスクになりますので制限が必要です。グラス1杯程度のワインはリスクを上げないとされています。一方、乳製品、コーヒー、大豆を含む豆類には痛風発症リスクを下げる効果があります。特に低脂肪乳製品はその効果が高いとされます。穀類、お茶、紅茶、野菜類は痛風発症リスクには関係しません。なお、肥満は痛風発症のリスクです。運動も適度に行い、体重の管理に気をつけて、バランスの取れた食生活を心がけて下さい。痛風には高血圧、脂質異常症やメタボリックシンドロームの合併が多いですが、尿酸降下薬の投与でこれらが改善するかどうかについては結論が出ていません。一方、高血圧に効果があるDASH食や、脂質改善効果が示されている地中海食は痛風のリスク減少効果があるとされます。痛風によい生活習慣はメタボリックシンドロームの改善・予防に有効と考えられます。
文責 谷口敦夫