小児発症全身性エリテマトーデス(cSLE)とは
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)は,免疫複合体による血管炎を主病態とする代表的な全身性自己免疫疾患(膠原病)です。成人の若年女性に好発する疾患ですが、18歳未満、または16歳未満発症と定義される小児発症SLE(childhood-onset SLE; cSLE)が全体の約20%を占めます。cSLEの平均発症年齢は12歳で、5歳以下での発症はまれです。男女比は成人では9:1〜10:1ですが、cSLEでは4.5:1〜5:1と小児発症例においても女子に多く発症する傾向があります。有病率は小児人口10万人あたり0.36〜2.5で、アジアを含む非白人に多く発症することが知られています。
cSLEのメカニズム
この疾患では、抗核抗体や抗DNA抗体、抗dsDNA抗体、抗Sm抗体などの自己抗体が陽性となることから、自己抗体や免疫複合体による獲得免疫の異常が病態を形成すると把握されてきました。近年、自然免疫の役割が注目されており、I型インターフェロン(Type I IFN)や、好中球からのNETs(Neutrophil Extracellular Traps) の放出による細胞死、Toll様受容体などの関連が報告されています。cSLEdでは、腎臓など全身性に血管炎を介した臓器のダメージが導かれます。このメカニズムは成人で発症するSLEと共通している部分が多くあります。
cSLEの症状
cSLEの診断のきっかけとなる徴候は皮膚症状、発熱などの全身症状、血球減少、学校検尿での異常の指摘などさまざまです。発熱はcSLEでは約70%と成人発症SLEより高い頻度で認めるとの報告があります。発熱は微熱であることもあれば、高熱を呈することもあります。cSLEの発症の誘因として、ウイルス感染症や疲労、また光線過敏がある場合には長時間の日光曝露がきっかけとなる場合があります。
表 cSLEでみとめる臨床徴候(検査所見異常を除く)
全身症状 |
発熱、倦怠感、食思不振、体重減少 |
皮膚粘膜症状 |
頬部紅斑(蝶形紅斑)、円板状皮疹、光線過敏症、口腔潰瘍、環状紅斑、凍瘡様皮疹、爪周囲紅斑、脱毛症、Raynaud現象、網状皮斑 |
筋骨格系 |
関節痛・関節炎、腱鞘炎、筋痛 |
腎症状 |
糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、高血圧 |
神経症状 |
せん妄、痙攣、頭痛、認知障害、舞踏病、脳血管障害 |
循環器系 |
心膜炎、 Libman–Sacks心内膜炎 |
呼吸器系 |
胸膜炎、肺出血 |
消化器系 |
肝障害、腹膜炎、ループス腸炎 |
網内系 |
肝脾腫、リンパ節腫脹 |
眼症状 |
網脈絡膜症、乳頭浮腫、網膜症 |
cSLEの発症から診断までの期間については、症例によって症状や経過は一様でありません。なかには、血小板減少が慢性的に数ヶ月〜数年間経過し、免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病として観察中に、cSLEの免疫異常(抗核抗体や抗dsDNA抗体の陽性所見など)が出現し、cSLEの診断に至ることがあります。自覚症状に乏しい患者さんが存在する一方で、重症な例では、腎不全、中枢神経障害、呼吸障害、循環動態の変動、皮膚潰瘍,血液凝固異常などが急速に進行し重篤になることがあります。
cSLEの診断
分類基準
本邦では「小児 SLE 診断の手引き(1985)」が主に用いられており、小児慢性特定疾病の医療助成の申請の際にも参考にされています。これは米国リウマチ学会(ACR)による分類基準(1981)に 低補体血症を加えた12項目から構成され、経過観察中、経時的あるいは同時に、12 項目のうちいずれかの4項目,あるいはそれ以上が存在するとき、小児SLEの可能性が高いとするものです。感度94%、特異度94.6%といずれも優れた結果が得られています。cSLEでは成人発症SLEに比較して低補体血症を認める頻度が高いことが、この手引きが作成された背景にあります。
表 小児 SLE 診断の手引き
1 |
頬部紅斑 |
鼻唇溝を避けた,頬骨隆起部の平坦あるいは隆起性の固定した紅斑 |
2 |
円板状紅斑 |
付着する角化性落屑および毛嚢栓塞を伴う隆起性紅斑で,陳旧性病変では萎縮性瘢痕形成がみられることがある |
3 |
光線過敏症 |
日光に対する異常な反応の結果生じた皮疹が患者の病歴あるいは医師の観察により確認されたもの |
4 |
口腔潰瘍 |
口腔もしくは鼻咽腔潰瘍が医師により確認されたもの。通常は無痛性。 |
5 |
関節炎 |
圧痛,腫脹あるいは関節液貯留により特徴づけられる,2か所あるいはそれ以上の末梢関節を侵す非びらん性関節炎 |
6 |
漿膜炎 |
(aかb)
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7 |
神経障害 |
(a~fのいずれか)
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8 |
腎障害 |
(aかb)
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9 |
血液学的異常 |
(a~dのいずれか)
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10 |
免疫学的異常 |
(a~cのいずれか )
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11 |
抗核抗体陽性 |
免疫蛍光抗体法あるいはそれと等価の方法で,異常高値を示す抗核抗体を検出すること。経過中のどの時点でもよい。薬剤誘発性ループス症候群と関連することが知られる薬剤投与のないこと。 |
12 |
低補体血症 |
血清補体(CH50またはC3のいずれか)の低下 |
*経過観察中,経時的あるいは同時に,12 項目のうちいずれかの4 項目,あるいはそれ以上が存在するとき、小児SLEの可能性が高い。 |
渡邊言夫. 小児膠原病の診断・治療に関する研究―昭和59年度研究報告総括.厚生省心身障害研究報告書, 1986:31‒37
cSLEの検査:臓器障害の評価
お一人お一人にあった治療を選択をおこなうため、cSLEによる臓器障害の有無とその程度、疾患活動性の評価が重要です。診断から治療開始を前提とした一連の評価を行います。まずcSLEを疑った場合,まずは⾎液検査として⾎算,炎症反応,凝固,一般⽣化学検査のほか,免疫グロブリン値,補体価,抗核抗体,さらに尿検査を行います。cSLEが強く疑われた場合, 追加して、⾎液検査(⾃⼰抗体,甲状腺機能,感染症スクリーニング検査),画像検査,⽣理検査,腎⽣検を含めた全⾝的な評価が必要となります。小児ではループス腎炎を合併する頻度が高く、尿所見が正常でも 70%以上の症例で腎生検の結果ループス腎炎の所見が認められています (サイレントループス腎炎)。
cSLEの治療と疾患活動性の評価
cSLEと診断されたら、低疾患活動性(Lupus low disease activity status:LLDAS)や「寛解」と呼ばれる状態を目標に、治療を開始します。
寛解導入療法は活動期の炎症病態を速やかに抑制し、背景にある過剰免疫病態を是正することを目的とし、ステロイドを投与します。中等症以上にはメチルプレドニゾロンパルス療法(ステロイドパルス)が選択されます。寛解維持を目的とした免疫抑制療法は、重症度に応じた選択を行います。高リスク群に含まれる Class III・Class IVの重症なループス腎炎では、ステロイドパルス療法に引き続き、経口薬のミコフェノール酸モフェチル(MMF)、経静脈シクロフォスファミドパルス療法(IVCY)のいずれかを選択します。
寛解維持療法は少量のステロイドと他の免疫抑制治療の併用療法が一般的です。経口の免疫抑制薬とヒドロキシクロロキン(HCQ)との併用を基本とします。HCQは6才以上に対し、投与が可能です。SLEで保険適用がある免疫抑制薬には、MMF、アザチオプリン(AZA)、タクロリムス(TAC)、ミゾリビン(MZR)などがあります。本邦では2015年にMMF、HCQが保険適用になったことより、これらの薬剤がcSLEにおいても主要な治療選択になってきています。
ミコフェノール酸モフェチル(MMF、セルセプト®)
ミコフェノール酸のプロドラッグです。MMFは体内でミコフェノール酸へ加水分解され、プリン体代謝を阻害する代謝拮抗薬です。T・B細胞の合成を阻害し、免疫抑制作用を発揮します。ループス腎炎に対して保険が適用され、通常、ミコフェノール酸モフェチルとして1回150~600mg/m2を1日2回12時間毎に食後経口投与します。カプセルの服用が困難な場合には、セルセプト®懸濁用酸の選択が可能です。懸濁剤1mLがミコフェノール酸モフェチル200mgに相当します。
ヒドロキシクロロキン(HCQ、プラケニル®)
海外では抗マラリア薬としても使用されていますが、本邦では免疫調節薬として、皮膚エリテマトーデスと全身性エリテマトーデスに保険適用があります。欧州小児リウマチ学会 SHARE (Single Hub and Access point for pediatric Rheumatology in Europe)による治療推奨では、HCQについて、「眼科検査による評価が可能なすべてのcSLE 症例に対して,禁忌がなければ HCQ の投与が考慮されるべきである」としています。6歳未満の幼児への投与は,4‒アミノキノリン化合物(クロロキンやHCQなどの化合物の総称)の毒性作用に感受性が高いため禁忌です。
HCQの用量は脂肪組織への分布が少ないことから、理想体重により設定されています。「理想体重が31kg以上46kg未満の場合、1日1回1錠(200mg)を経口投与する」こととなっていますが、日本人では痩せ型の小児が多いことを考慮する必要があります。「米国眼科学会HCQ網膜症スクリーニングに関する推奨」では、痩せ型の患者への高用量投与のリスクを避けるため,5mg/kg/日以下の投与が推奨されています。用量が1錠(200mg)/日よりも少なく、錠剤を粉砕した場合、味の問題で内服が困難となります。HCQは半減期が40〜60日と長いため,必ずしも均等に内服日を分散する必要はありません。1週間のうち3〜5日間 あるいは隔日の内服を行います。
タクロリムス(Tac、プログラフ®)
カルシルシニューリン阻害薬で、T細胞の活性化を選択的に抑制するため,骨髄抑制や感染症のリスクが比較的少ない薬剤です。ループス腎炎に保険適用があります。
完全ヒト型抗BLySモノクローナル抗体製剤(ベリムマブ®)
2019年に完全ヒト型抗 BLySモノクローナル抗体製剤ベリムマブ®が5才以上の小児にも点滴製剤が承認されました。既存治療で効果不十分なSLE症例に適用となりますが、ステロイドのさらなる減量効果が期待されます。
まずは低疾患活動性Lupus low disease activity status:LLDASをめざす
近年のこれらの治療の進歩や治療アルゴリズムの整備によって、cSLEの急性期の生命 予後は大きく改善しています。しかし、長期の生命予後や生活の質は、疾患そのものやステロイドなどの治療薬に起因する臓器障害の蓄積に影響されます。最近のコホート研究等の結果よって、寛解またはLLDASの状態を長期維持することにより、長期的な臓器障害を軽減することが明らかにされ、SLEの治療目標として寛解またはLLDASが提唱されています。その概念に基づきcSLEの寛解維持療法におけるステロイドの用量はプレドニゾロン(PSL)で0.1〜0.2mg/kgとされています。小児SLEはより重症の傾向と再燃のリスクがあることより、成長障害を含む副作用の懸念がないステロイド用量での低疾患活動性の維持を目標とします。経過が良好で再燃のリスクが低い場合にはステロイドの中止も許容されますが、ループス腎炎を伴う場合には慎重な判断が求められます。
予後
前述のような治療の進歩に伴い、cSLEの累積生存率は飛躍的に向上しています。しかし、無治療寛解を維持できる症例は少数であり、多くが成人に達しても医療の継続を必要とします。また疾患活動性のコントロール不良による炎症の持続は、成人期における心血管疾患のリスクと関連することが示唆されています。ステロイドの減量も重要ですが、疾患活動性を抑制した状態で維持する治療選択をすることが、よりよい長期予後には不可欠です。
(文責 宮前多佳子)