患者さんの声
MYさん 68歳(手術時)、女性、関節リウマチ
私は2015年9月に佐久間先生による左人工肘関節置換術を受けました。
当時は関節リウマチの症状が進行しており、左肘はある程度伸ばすことはできても90度も曲げられない状況でした。私は、洗顔、ボタンのかけ外し、食事など多岐にわたる肘を曲げて行う動作が出来なかったためとても不自由な思いをしていましたが、どうにか工夫して右手だけで日常生活を送っていました。しかし右手だけの生活では右肘まで悪くなったらどうなるのだろうという不安はいつも覚えていました。そこで将来のことを考え、どうせ手術をするなら早いほうが良いと思い手術を受けることを決断しました。
手術の日は麻酔から目覚めて無事に手術が終了したことがわかりました。入院期間は2週間ほどでしたが、入院中は曲げるときに痛みが強くリハビリも十分には進みませんでした。しかし退院後はゴムボールを肘に挟みボールを押すように曲げたり、肘の下にボールを置いて肘を伸ばしてボールを押すという自宅でのリハビリ方法の指導も受け、通院でのリハビリも続けるうちに徐々に曲げるのも楽になってきました。日常生活でも自然と左肘を使って生活するのも良いリハビリになり、どんどんと出来る動作が増えていったように思います。
今では曲げる方は不自由なく出来るようになりました。伸ばす方は完全には出来ませんが、日常生活を送る上で不自由を感じることはなく、人工関節が入っていることを意識することもありません。手術前と比べると日常生活が格段に向上しました。(2019.8.20)
肘関節の障害
膝関節や股関節の人工関節置換手術に比べると、肘の人工関節置換手術は知られていないことが多く、リウマチ患者さんの間で「肘の人工関節は良くない」という印象をもたれていることも多いようです。しかし実際には手術手技も確立されてきており、人工関節の使用機種の進歩もあって近年は手術成績が向上し、手術によって痛みを軽減させ、関節の動きを滑らかにすることが充分に可能になっています。手術後に痛みなく肘を動かせるようになった患者さんの喜びは膝・股関節の人工関節に匹敵するものがあります。当院での手術件数も増加してきており、ここ数年は年間10件程度の人工肘関節置換手術を行っています。
肘関節の痛み、可動域制限で支障をきたしている患者さんは当センター整形外科担当医にご相談ください。
肘関節の構造と機能
肘関節の主な機能は手や指を目的の場所に到達させる「リーチ機能」と隣接する肩や手関節の力を伝搬する「上肢の伝達機能」です。そのため、肘の痛みで関節が十分に動かない場合、屈曲に問題があれば、「食事の際に食べ物が口に運べない」「洗顔や洗髪が出来ない」「シャツのボタンが留められない」などの生活制限が起こります。また伸展に問題があれば「お風呂で身体を洗えない」「トイレでお尻を拭けない」「靴や靴下が履けない」などの症状を認めます。さらに肘に力が入らないと肩関節や手関節にも影響が出て上肢全体の力が出にくくなり「肩が挙げ辛い」「手指や手首に力が入らない」という症状も出てくるため、肘関節は上肢の要の関節と言われております。
人工肘関節置換術
関節破壊が進行し痛みを伴う場合、あるいは動きの悪さにより生活に支障をきたしている場合には、損傷した肘関節を部分的に削り人工肘関節と交換します。1960年代に開発された人工肘関節は開発が進み、現代では数多くの機種が世界中に登場し、関節リウマチや重度の変形性肘関節症の患者様に使用されております。人工肘関節はおおまかに2つの種類に分類されます。非連結型(表面置換型)と連結型の人工関節です。非連結型は関節破壊が軽度で、重度な変形のない患者様に使用されます。別名は表面置換型と言われ骨切除量が少なくご自身の靱帯も残せるため、本来の肘のkinematicな関節運動を再現出来うる大きなメリットがあります。また連結型は、関節破壊が中等度から重度に進行した患者様に使用され、術後早期からの安定した関節運動を獲得できます。当院では非連結型(表面置換型)人工肘関節では当センター桃原前教授が開発に関与したK-NOW人工肘関節(帝人ナカシマ社)を用い、連結型ではDiscovery Elbow System(DJO社)とNexel(Zimmer-Biomet社)を用い、患者様の病状にあわせて機種を選択し、良好な手術成績をあげております。人工肘関節は、その特殊性から専門医療機関での手術治療が望ましく、当院は全国でも屈指の人工肘関節置換術の手術件数であり、手術に習熟した整形外科医、熟練したリハビリスタッフのもと高い医療水準をご提供しております。
手術のながれ
手術は通常全身麻酔で行い、手術を受ける前にはいくつかの準備が必要です。手術の前日(手術前日が休日の場合は2~3日前)に入院し、レントゲン、心電図、血液検査、CTなどの必要な検査を行います。
手術では肘の後方を10-15cm程度切開します。肘関節の損傷した表面を削りとり人工肘関節を挿入します。肘の関節炎の症状や損傷の程度にもよりますが、手術は通常2~3時間かかります。
手術翌日にはベッドから起き、歩くことが可能です。約1週間後より可動域訓練のリハビリを開始します。術後の経過にもよりますが入院は通常2~3週間程度です。主治医の指示に従って外来で慎重にリハビリを継続し、1~2ヶ月程度をかけて徐々に通常の生活を再開していきます。人工肘関節を長持ちさせるために、手術を受けた手では重いものを持ち上げたり、手を強く地面につくような活動は極力避けることが理想的です。
K-NOW人工肘関節
Coonrad-Morrey人工肘関節
文責 王 興栄
2021年4月1日更新