東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター
外来診療予約

患者さんの声

はじめて猪狩先生に足を診ていただきました日にペッチャンコだった趾も今はふっくらとしてとても歩きやすいです。手術する前はあのような足でしたのに、ここまで真っすぐしにていただいて心から感謝しております。

足の痛みから解放されますと意欲も湧いてくると実感する出来事がございました。先日、北海道に旅行に行き、知床峠に差し掛かったときでした。車を降りてみますと、遊歩道入口の看板に「往復2キロ、徒歩40分」とございます。手術前の私でしたらその案内文を見ただけで峠を歩くなんてとんでもないと即座に諦めただろうと思います。なぜなら手術をする前の私は家の中やごく近所を歩くときでさえ、いかに痛みをかわせるかに必死でしたので。

新しい足を手に入れた今回は気持ちが違いました。何も迷わず、絶対に歩いてみたい!と思いました。そして歩き出した道はアップダウンあり、デコボコありでした。でも自然に足の趾先に体重移動し、土をけって歩き切ることができました。途中休憩をはさむ必要も感じませんでした。雄大な景色も存分に楽しめました。主人も「よかった、よかった」と喜んでおります。

先生には快適な足と活動の意欲までいただきました。これからも今の状態を保てますように私なりに精一杯努力してまいります。

 

足指の変形

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リウマチ白書2010によると関節リウマチの患者さんの約2割が足指や足の裏の痛みから関節リウマチを発症し、7割以上の方が靴で悩んでいらっしゃいます(リウマチ友の会会員8307人中6408人)。また足の痛みを特に治療せずに諦めていると答えた方も1割近くいらっしゃいました。多くの方が足の変形や痛みに困っていることがうかがえます。リウマチの方の足の特徴は、足首(足関節)や踵周囲(後足部)の変形、外反母趾や足指の脱臼など変形、そしてそれらに伴う痛みや胼胝(タコ)の形成です。私たちはこのようなリウマチ足に対し、圧を分散するような靴を推奨し、踏み込めるように装具療法やリハビリの指導を充分に行います。それでも歩くと足首や足の裏が痛い、足指が靴にあたったり引っかかったりして靴が履きにくいなど場合には積極的に手術をお勧めし、多くの患者さんにご満足いただいています。足でお悩みの患者さんは当センター整形外科担当医にご相談ください。

 

外反母趾の原因

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母趾(親指)の付け根の関節に滑膜炎が生じると、この関節を破壊し、関節が緩んだ結果変形が始まります。母趾(親指)には様々な筋肉・靱帯が付着しており、一度変形が始まってしまうと筋肉や靱帯に引っ張られてどんどん変形が進行するという悪循環となり、外反母趾になります。

 

 

 

 

母趾以外の指の変形の原因

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母趾(親指)と同様に指の付け根の関節に滑膜炎が生じると変形が始まります。変形が進行すると指の付け根が脱臼し、外反母趾とは違い指先が上(地面から離れる方向)に持ち上がってきます。その結果中足骨の末端に圧がかかるようになり胼胝(タコ)ができてしまいます。また、山型に変形した第2関節が靴などに擦れてしまい胼胝(タコ)ができてしまいます。
胼胝(タコ)を自分で削っている患者さんをよく見かけますが、これは出来ればやめてください。関節の脱臼が胼胝(タコ)の原因のため、これを治さない限り胼胝(タコ)は治りません。また傷口からバイ菌が入り、化膿してしまうこともあります。

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手術の流れ

外反母趾の程度、外側趾(II-V趾)の脱臼の有無、骨頭破壊の程度、伸筋腱の緊張度合いなど足指の変形は患者さんそれぞれにより異なります。まずは患者さんの足の変形の程度により、いくつかの方法を組み合わせて手術を計画します。計画に際して重視しているのは、術後のI-Vの並び(IIの中足骨頭を頂点に他の指の中足骨頭が緩やかなカーブを描く)、横アーチの再現、不要な骨切りを出来るだけ避けることで、毎年100名を超える患者さんを手術している経験をもとにその他にも様々なことを考慮して手術を計画しています。また手術を待っている間に関節破壊や変形が進行した場合は、術前外来や入院時に判断して手術予約時にご説明した予定とは違う方法で手術を行うこともあります。以下に代表的な手術方法を解説します。

上:手術前、中:手術後、下:レントゲン(手術前、手術直後、手術後数ヶ月)

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母趾の手術

1. 中足骨骨切り術

中足骨を切って、外反母趾を矯正する方法です。切った骨は適切な方向・角度に移動させ、鋼線(針金)やスクリュー(ネジ)、プレートなどで固定します。骨をずらすだけであり関節は残りますので、関節温存手術とも呼ばれます。数多くの関節温存手術が知られていますが、主に当センターで考案した第1中足骨近位回旋楔状骨切り術(下図)を選択しています。関節が温存されることで足を蹴り出す際に母趾の力を使うことが可能になり、ほぼ正常な歩行が可能になります。

最近、整形外科領域で最高峰の医学雑誌にこの術式の良好な長期成績を報告しました。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33475311/

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2. 水平骨切り術

中足骨を側面からほぼ水平に切る方法です。切った骨の趾先側を適切な位置に移動させ、スクリュー(ネジ)などで固定します。骨をずらすだけであり関節は残るので、こちらも関節温存手術の一種です。第1中足骨近位回旋楔状骨切り術では母趾とII趾の骨頭の高さの違いが許容できない場合に選択しています。

3. 切除関節形成術

数年前までリウマチ足に対する手術の主流とされた手術法で、中足骨の末端を切除します。近年では関節の破壊が重度の場合に適応としています。こうすることで痛みが消え、外反母趾も矯正されます。踏ん張りが弱くなり、足も少しだけ小さくなりますが、日常生活には大きな影響はありません。

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4. 関節固定術

同様に関節の破壊が重度の場合に適応となります。中足骨と足指の骨を一部切った後、鋼線(針金)やスクリュー(ネジ)などで固定します。この関節は動かなくなりますが、痛みがとれ、外反母趾は矯正されます。つま先足立ちができにくくなりますが、切除関節形成術に比べると踏み返しは強く、日常生活には大きな影響ありません。

5. 人工関節置換術

同様に関節の破壊が重度の場合に適応となります。破壊された関節を一部切りとり、人工物(シリコン製)に置き換えます。痛みがとれ、外反母趾も矯正されるだけでなく、関節の動きも残せます。ただし人工物の破損や細菌感染の危険性があります。

外側趾(母趾以外の指、2-5指)の手術

手術する足の指の本数は変形の程度によって異なります。1本だけという患者さんもいれば4本すべてという患者さんもいます。

1. 中足骨短縮骨切り術

中足骨の一部を竹輪状に切りとり、短縮させて鋼線(針金)で固定します。そうすることで足の指の付け根で生じていた脱臼を治します。なお固定に使用する鋼線(針金)は足の指先から外に出ている状態になります。この鋼線(針金)は手術後2週間ほどで抜去します。

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2. 水平骨切り術

中足骨を側面からほぼ水平に切る方法で、外側趾では5趾のみが対象になります。切った骨の趾先側を適切な位置に移動させ、スクリュー(ネジ)などで固定します。骨をずらすだけであり関節は残ります。術後に骨頭の上方変位が起こりにくいため、横アーチを維持するのに有利な方法です。

3. 軟部形成術

伸筋腱を延長し、関節包を切開することで脱臼を整復する方法です。脱臼の程度などにより選択します。必要に応じ関節包を縫縮して関節の変形を矯正します。外側趾(2-5趾)の腱の緊張のバランスを取るために軟部形成術単独で行うこともあれば、骨切り術を併用することもあります。特に2趾や2、3趾は脱臼しているが、その他は脱臼していないという場合に適応することが多いです。軟部形成術単独で行う場合には、骨を切らなくて済むので骨切り部の変形治癒や偽関節(骨がくっつかないこと)の不安がなく、手術時間が短く侵襲も少ないため術後の痛みが少ないという利点がありますが、術後に皮膚の緊張が高まるため皮膚障害のリスクが上がることが欠点と考えられています。この場合も短期間鋼線(針金)で固定し、手術後2週間ほどで抜去します。

4. 切除関節形成術

関節の破壊が重度の場合に適応となります。中足骨の末端を切除してしまいます。これにより指先の変形が改善し、タコも徐々に消失していきます。なお、手術中に指先の不安定性(グラグラ感)が残る場合は鋼線(針金)で固定し、鋼線(針金)は足の指先から外に出ている状態になります。この鋼線(針金)は手術後2週間ほどで抜去します。

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手術後の処置

1. 入院中

手術部位はあくまで切った骨を鋼線(針金)で固定しているだけなので、つま先足立ちをしたり、何かの拍子につま先で踏ん張ったりすると骨がずれてしまいます。前側に体重をかけない踵(かかと)歩行によって骨がずれるのを予防して頂きますが、その際かかと歩行に適した専用の医療用サンダルを履いていただいています。患部に体重をかけての歩行は術後7-10日後より開始し、それまでは車椅子や松葉杖を使用していただきます。はじめは歩きづらいため、理学療法士とともに練習をしていただきます。 また傷が落ち着き次第(手術後約2-3週)、再発予防のための装具を装着していただきます。その装具は入院中に型取りを行い、入院中または外来にてお渡しする予定です。

入院中は傷の処置を週に1~2回行います。抜糸は手術後約2週間で行います。ビニールなどで包んで手術した足を濡らさなければシャワーを浴びることも可能です。

手術後の合併症の有無を調べるために定期的に血液検査を行います。また手術部位のチェックのためにレントゲン撮影を何度か行います。

2. 退院時

手術後約1-2週間で退院となります。手術した足は包帯固定をして、かかと歩行用の医療用サンダルを履いて退院していただきます(2ヶ月程度使用していただきます)。手術した足をビニールなどで包んで濡らさなければシャワー浴も可能です。術後約2週まで入院していた場合は退院前に抜糸し、指先から突出している鋼線(針金)を抜きます。鋼線の抜去は違和感はありますが、痛みをほとんど伴わないため麻酔は不要です。

3. 退院後最初の外来受診(手術後約2-4週頃)

かかと歩行用の医療用サンダルで来院してください(2ヶ月程度使用していただきます)。足を固定していた包帯を外し、抜糸前に退院した場合には抜糸を行い、指先から突出している鋼線(針金)を抜きます。入院中に作成した装具もこの時期から着用していただきます。また数日後から手術した足も濡らせるようになり、シャワー・入浴も可能となります。

全治までの期間

足の手術の場合、傷がくっ付いて抜糸できるまで手術後2週間、切った骨同士が癒合するのに8週間以上、腫れが引くのに8〜12週間、そしてつま先足立ちなど指先に負荷をかけていいのが12週間程度です。つまり手術後3カ月程度で全治する予定です。胼胝(タコ)はその頃までには自然に脱落します。

足の中に残っている鋼線(針金)について

足の中に残ったままでも体にはほとんど影響はありません。金属が体内にあると行えないMRI検査も、足そのものをMRI検査するのでなければ問題ありません。つまり頭・腰・膝などのMRIは問題なく行えます。
一方で、体内に金属が入っているのが不快な場合や、皮膚の中に埋まった鋼線(針金)が靴を履くと当たって気になる場合などは抜去することもできます。ただし切った骨を固定するために鋼線(針金)を入れているため、骨が完全にくっついた後に抜去します。一般的には手術後6カ月から1年で抜去のための手術を行います。その際は外来手術で行ったり、場合によっては1〜2泊程度の入院で行います。手術翌日から普通に歩くことができます。

文責 猪狩勝則、矢野紘一郎
2021年4月1日更新