東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター
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はじめに

ステロイド薬は強力に炎症をおさえる作用があり、膠原病や関節リウマチの治療に広く使用されています。しかし、ステロイドを服用すると骨が弱くなることをご存知でしょうか?ステロイド薬は骨を作る細胞の働きを弱め、骨を吸収する細胞の働きを強めて骨を弱くします(図1)。また、腸や腎臓でのカルシウムの吸収を低下させます。使用するステロイドの量が多いほど骨折の危険性は高くなり、特に背骨の骨折はその影響が顕著です。たとえ服用しているステロイドの量が少なくても、3か月以上使用する場合は骨粗鬆症への対策が必要です。

 

(図1)

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診断

以下のいずれかの場合は、骨粗鬆症と診断されます。
1)背骨や足の付け根の骨が折れている。
2)その他の軽微な外力で生じた骨折があって、骨密度が若年成人平均値の80%未満。
3)骨折はないが、骨密度が若年成人平均値の70%未満。

薬物療法

日本のステロイド性骨粗鬆症のガイドラインでは、既存骨折、年令、ステロイドの投与量、腰椎骨密度(必須でない)の4項目のみで簡便に薬物治療群と経過観察群が判別できます(図2)。

 

 (図2)

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1 )経口ビスホスホネート製剤

最も使用頻度が高いお薬で、アレンドロン酸(商品名 ボナロン®、フォサマック®、後発品:アレンドロン酸®など)、リセドロネート(商品名 アクトネル®、ベネット®、後発品:リセドロン酸Na®など)、ミノドロン酸(商品名 リカルボン®、ボノテオ®、後発品:ミノドロン酸®)、イバンドロン酸(商品名 ボンビバ®)があります。ステロイド薬による骨吸収を抑制することにより骨密度を増やす作用があります。ステロイド薬を開始したら、早期からこのお薬を開始することで、ステロイドによる骨粗鬆症の進行を防止します。毎日、週1回、月1回の製剤があり、起床してすぐにコップ1杯の水(約180mL)とともに服用し、服用後30分~60分立っているか、座っている必要があります。
 ビタミンD不足だと十分に効果が発揮できないため、内服中は食事、日光、場合によってはサプリメントなどでビタミンDを補う必要があります。内服中に抜歯をすると、頻度はまれですが「顎骨壊死」という顎の病気を発症してしまう可能性があります。そのため、抜歯が必要な歯があるときは、できるだけ投与前に抜歯を済ませておくべきです。お薬を開始してから抜歯が必要になったときは、主治医にご相談してください。一時的にお薬を中止していただく場合があります。妊婦には禁忌であり、将来の妊娠に対する安全性もまだ確立していません。特に将来妊娠を考えている女性の患者さんは、主治医とメリット、デメリットを相談の上で服用を決めて下さい。

 

2 )静注ビスホスホネート製剤

月一回静注のイバンドロン酸(商品名 ボンビバ®)、月一回点滴静注のアレンドロン酸(商品名 ボナロン®、後発品:アレンドロン酸®など)、年一回点滴静注のゾレドロン酸(商品名 リクラスト®)があります。経口ビスホスホネート製剤を消化器症状などで服用できない場合や、どうしても飲み忘れてしまう場合などに用いられます。注意事項は、経口剤と同じです。

 

3 )副甲状腺ホルモン製剤

毎日自分で皮下注射のテリパラチド(商品名 フォルテオ®、後発品: テリパラチドBS®)と、週1~2回皮下注射のテリパラチド酢酸塩(商品名 テリボン®)があります。背骨が折れて腰痛が持続している場合などでは、特に有効なお薬です。投与期間には制限があり、両剤とも24か月までしか使用できません。投与後は、血圧低下、めまい、立ちくらみ、動悸、気分不良、悪心などがありうるので、注意が必要です。

 

4 )活性型ビタミンD製剤

アルファカルシドール(商品名 アルファロール®、ワンアルファ®、後発品: アルシオドール®、アルファカルシドール®など)、エルデカルシトール(商品名 エディロール®、後発品:エルデカルシトール®) などがあります。消化管からカルシウムの吸収を増加させて骨を守る効果がありますが、骨密度の改善効果や骨折の防止効果はビスホスホネート製剤よりも弱いです。1日1回食後の服用なので内服しやすいお薬です。 ビスホスホネート製剤と一緒に用いると、骨密度増加効果が増強されることも報告されています。一方、このお薬を服用すると、血液中のカルシウムが高くなったり、尿路結石ができやすくなったり、腎機能が悪化する可能性もあるため、開始後は血液や尿の検査を定期的に行う必要があります。

 

4 )デノスマブ (商品名 プラリア®)

骨吸収を抑えて骨密度を増加させる効果のみならず、関節リウマチの骨破壊を抑制する効果があり、ステロイド性骨粗鬆症にも有効です。投与方法は、6か月1回の皮下注射になります。このお薬の作用で血液中のカルシウムが低下する可能性があるため、それを防止するためにビタミンD製剤(商品名 デノタス®)や活性型ビタミンD製剤を毎日服用する必要があります。ビスホスホネート製剤と同様に、頻度はまれですが投与中に抜歯をすると「顎骨壊死」という顎の病気を発症する可能性があります。そのため、投与前に歯科を受診し、もし抜歯が必要なら先に実施しておくことが推奨されています。投与後は、口腔内をできるだけ清潔に保つ必要があります。

文責 古谷武文
2022年8月7日 更新