「ベーチェット」は1937年に症例を報告したトルコ人の皮膚科医の名前です。 Dr. ベーチェット以前にも何人かの医師が症例を報告していました。しかし、Dr. ベーチェットだけが従来の概念では説明できない新たな疾患であると強く主張し、現在ではベーチェット病と呼ばれるようになっています。 なお、英語で検索するときはBehcet's diseaseです。
疫学
世界的には、いわゆるシルクロードに沿った地域に多くみられます。つまり日本、朝鮮半島、中国、から中近東、地中海沿岸諸国を含む地域です。人口に対する患者数の比率ではトルコ共和国がもっとも高頻度です。しかし患者数では日本が最大で、約2万人です。わが国の中でも分布に偏りがあり北に多く南に少ない傾向があります。 都道府県別では北海道が最も高頻度です。 地域別での患者数は関東地方が最大です。
病態
白血球の好中球という細胞の機能が亢進(こうしん)している状態が病態の中心にあります。この好中球によって炎症がおきやすい状態になっています。 さらに、免疫異常、血栓のできやすさ、なども病態に関連しています。
症状
4つの主な症状があります。
1)くりかえす口腔内のアフタ性潰瘍
2)ぶどう膜炎などの眼症状
3)にきび、あるいは毛のう炎、結節性紅斑などの皮膚症状
4)外陰部潰瘍
です。そのほか中枢神経症状、腹痛などの消化器症状、血栓性静脈炎、動脈瘤などの血管症状、
なども伴うことがあり、多彩です。関節症状を認める場合もあり、特に関節症状で発症した場合は、関節リウマチなどとの鑑別診断が重要です。
検査
血液検査では白血球数、CRP、赤沈などで炎症の程度を測定します。IgD値の上昇はベーチェット病に比較的特異的な検査結果です。HLA-B51という遺伝子の型がベーチェット病と関係があるということが明らかとなってきています。 HLA-B51は、日本人全体では15%が陽性ですが、ベーチェット病患者では約60%が陽性となり診断の参考になります。ただし、HLAの型は保険診療では測定できません。
身体的な検査では、無菌の針を皮膚に刺すとそこに発赤が生じときに膿がたまってくる「針反応」がおき、比較的ベーチェット病に特異的な所見です。通常、外来ではあえてこの検査を行わず採血のあとの針をさした後の状態を観察します。
診断
厚生労働省の研究班の作成した診断基準があります。上述の4つの主な症状をすべて満たせば完全型のベーチェット病と診断します。詳細はここでは省略します。厚生労働省のホームページなどをご参照ください。
治療
炎症を抑える非ステロイド系消炎鎮痛剤、コルヒチンなどの内服を行います。眼のぶどう膜炎に対しては点眼液などの他、シクロスポリン(商品名 ネオーラル)あるいはタクロリムス(商品名 プログラフ)などの内服を行います。現在、新しい治療としては関節リウマチあるいは炎症性腸疾患などで使う生物学的製剤のインフリキシマブ(商品名 レミケード)がベーチェット病のぶどう膜炎に、そしてアダリムマブ(商品名 ヒュミラ)がベーチェット病の腸管病変に対して使用可能です。
ベーチェット病の治療は生物学的製剤を使うことができるようになり大きく変わりました。まずは当センターの担当医師にご相談ください。
文責 小竹 茂
2015年6月1日改筆