東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター
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2016年に欧州リウマチ学会 (European League against Rheumatic Diseases, EULAR)による「抗リウマチ薬による関節リウマチ治療推奨 」が改定されました(下図: EULAR recommendations for the management of rheumatoid arthritis with synthetic and biological disease-modifying antirheumatic drugs: 2016 update)。

2010年に発表され、2013年に改定された関節リウマチの治療推奨が2016年に再度改定されました。欧州でまとめられた治療推奨ですが、日本でもほとんど変更することなく適用できます(日本リウマチ学会の「関節リウマチ診療ガイドライン2014」も欧州リウマチ学会の治療推奨にほぼ準拠しています)。今回の改定のポイントは以下のとおりです。

  1. 2013年版で強調された抗リウマチ薬の併用療法の位置が弱められ、メトトレキサート(リウマトレックス®)の単剤での治療開始が推奨されるようになった。
  2. 初期治療においてステロイドの併用を強く推奨されるようになった。
  3. 治療目標を達成した後の寛解維持期での治療薬の減量や投与間隔の拡大の記載が加わった(国内での保険適応がない場合があり注意が必要です)。
  4. Phase毎のゴールが「6ヶ月以内の治療目標達成」に加え、「3ヶ月以内の改善かつ6ヶ月以内の治療目標達成」となった。
  5. 予後不良因子に抗リウマチ薬2剤の効果不十分が加わった。
  6. Phase IIの「予後不良因子あり」での選択薬が「生物学的製剤」から「生物学的製剤もしくは分子標的型合成抗リウマチ薬(JAK阻害薬: ゼルヤンツ®)」となった。
  7. Phase IIIが「生物学的製剤の変更」から「生物学的製剤の変更もしくはJAK阻害薬の使用」に変更された。

国内の医療情勢に合わせたコメントを末尾に加えておりますのでご参照下さい。

eular2016

MTX: メトトレキサート(リウマトレックス®)、LEF: レフルノミド(アラバ®)、SSZ: スルファサラゾピリン(アザルフィジンEN®)、JAK阻害薬: トファシチニブ(ゼルヤンツ®)、csDMARDs: conventional synthetic DMARDs(従来型合成抗リウマチ薬)、IL-6阻害薬: トシリズマブ(アクテムラ®)

訳注: リツキシマブは国内では保険適応なし


原則

A. 関節リウマチの治療はベストな治療を目標に、患者とリウマチ医が共同して治療法の選択を行うべきである
B. 治療方針の決定の際には、疾患活動性だけでなく、関節破壊の進行、合併症や治療安全性といった要素も考慮する
C. リウマチ医は関節リウマチの初期治療を担うべき専門家である
D. 関節リウマチは個人的負担、社会的負担、医療負担が大きいため、リウマチ医はこれらを考慮して治療にあたるべきである。


治療推奨

1. 関節リウマチの診断がつき次第、抗リウマチ薬での治療を開始する
2. すべての患者で寛解もしくは低疾患活動性の維持を治療目標とする
3. 高疾患活動期は1-3ヶ月毎に検査と診察により疾患活動性をモニターし、3ヶ月で改善が見られない場合や6ヶ月で治療目標に達しない場合は治療内容を調整する
4. メトトレキサート(リウマトレックス®)を第一選択薬に含むべきである
5. メトトレキサート(リウマトレックス®)が使用できない患者の場合にはスルファサラゾピリン(アザルフィジンEN®)もしくはレフルノミド(アラバ®)を含んだ治療を選択すべきである
6. 抗リウマチ薬の初回投与もしくは変更の際にはステロイドの短期併用を考慮すべきだが、臨床的に可能な限り速やかに減量する
7. 第一選択の従来型合成抗リウマチ薬によって治療目標に達しなかった場合、予後不良因子がなければ、他の従来型合成抗リウマチ薬の使用を考慮すべきである
8. 第一選択の従来型合成抗リウマチ薬によって治療目標に達しなかった場合、予後不良因子があれば、生物学的製剤もしくは分子標的型合成抗リウマチ薬(JAK阻害薬)の追加を考慮すべきである
9. 生物学的製剤もしくは分子標的型合成抗リウマチ薬(JAK阻害薬)は従来型合成抗リウマチ薬を併用すべきだが、従来型合成抗リウマチ薬の併用が困難な場合にはIL-6経路阻害薬(アクテムラ®)と分子標的型合成抗リウマチ薬(JAK阻害薬)が他の生物学的製剤に比べ多少優位であると考えられている
10. 最初に使用した生物学的製剤もしくは分子標的型合成抗リウマチ薬(JAK阻害薬)が無効の場合、別の生物学的製剤もしくは分子標的型合成抗リウマチ薬(JAK阻害薬)を使用すべきである
11. ステロイドを減量中止後にも長期間寛解を維持している場合、特に従来型合成抗リウマチ薬を併用している場合には、生物学的製剤の減量を考慮してもよい
12. 長期間寛解を維持している場合、従来型合成抗リウマチ薬の減量を考慮してもよい


EULAR recommendations for the management of rheumatoid arthritis with synthetic and biological disease-modifying antirheumatic drugs: 2016 update. Smolen JS, et al. Ann Rheum Dis. 2017

文責 猪狩勝則
2017年3月22日更新