東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター
外来診療予約
一般名 トシリズマブ エタネルセプト アダリムマブ アバタセプト
商品名 アクテムラ®
80mg, 200mg, 400mg/バイアル
エンブレル®
10mg,25mg バイアル製剤
ヒュミラ®
20mg,40mg/皮下注射用シリンジ
オレンシア®
250mg/バイアル
後続品商品名   *エタネルセプトBS(後続1,2)    
標的分子 IL-6 レセプター TNF-α,β TNF-α CD80/86(T細胞)
投与経路 点滴 皮下注射 皮下注射 点滴
1回投与量 8mg/kg 0.2~0.4mg/kg/回(1回25mg上限) 体重15-30kg未満 20mg
体重30kg以上  40mg
10mg/kg/回,
体重75kg-100kg未満 750mg/回,
100kg以上 1000mg/回
投与間隔 4週毎 2回/週 2週毎 初回投与後2,4週,以後4週ごと
使用制限     体重15kg以上  
後続品商品名   *エタネルセプトBS(MA, 後続1)
皮下注用バイアル 10mg,25mg
*エタネルセプトBS(日医工,後続2)
皮下注用シリンジ10mg,25mg
*エタネルセプトBS(TY, 後続2)
皮下注用シリンジ10mg,25mg
   

総論・関節型JIA
文責 宮前多佳子・谷 諭美
2022年8月31日

 

全身型JIA

疫学・メカニズム

全身型JIAは、16歳未満に発症する自然免疫の異常による発熱と関節の炎症を起こすリウマチ性疾患です。発症年齢のピークは1-5歳ですが、小児期を通じて発症します。男子と女子で頻度は変わりません。

原因ははっきりとわかっていませんが、複数の疾患感受性遺伝子と、環境要因(生活習慣や感染症、ストレスなど)など多くの要因が発症に関連する多因子疾患と考えられています。インターロイキン6 (IL-6)やIL-1, IL-18といった炎症を引き起こすサイトカインが異常に産生されることで諸症状が出現します。

症状

  1. 全身症状

    2週間以上にわたって続く、1日の中で1-2回39度以上に上昇する発熱で発症することが多く、発熱に伴う特徴的なリウマトイド湿疹・サーモンピンク疹と呼ばれる紅斑を認めます。これらの皮疹に痒みはありませんが、部位は移動性で体から手足、顔面へと移動することもあります。熱の高いときに皮膚症状は出現しやすい傾向にあります。また、強い倦怠感、全身のリンパ節腫脹、体重減少などを伴います。

  2. 関節症状

    関節炎は多くの関節に認めますが、特に膝、手、足関節に高頻度でみられます。発症した初期の段階では、関節の痛みや腫れを認めない場合もありますが、全身型JIAの診断には関節症状の存在が重要です。

    発熱や皮膚症状などの全身性の炎症症状が治まった後に、関節炎のみ残る「全身発症型関節炎」と呼ばれる病態に移行することもあります。

  3. その他の症状

    肝臓、脾臓の腫れ(肝脾腫)、筋肉痛、漿膜炎(心膜炎や胸膜炎を)を認める場合があります。また、肺病変との関連が近年報告されており、特に若年発症の患者さんでは肺疾患の合併が高くなると言われています。

検査

上記の症状から、この疾患を疑い血液検査、画像検査を行います。この疾患に特異的な検査は存在せず、成人の関節リウマチや関節型JIAで認める抗CCP抗体などの自己抗体は陰性のため、臨床症状と以下の検査を合わせ、可能性のある他疾患を除外し、最終的に診断します。

血液検査では、好中球優位の白血球増多、血小板増多、貧血の進行を認めます。また赤沈値、CRP、血清アミロイドAといった炎症反応は高値を示し、凝固線溶系指標(FDP、Dダイマー)も高値となります。炎症性のサイトカインの上昇を反映するフェリチン値の上昇も特徴的です。

画像検査は、本疾患の強い全身の炎症を反映する18F-FDG-PET(保険適用外)やガリウムシンチグラフィが有用です。血液疾患の鑑別のために必要に応じて骨髄検査を行います。臨床症状とこれらの検査結果をもとに、感染症、血液疾患、血管炎症候群、他のリウマチ性疾患や自己炎症性疾患を除外して診断します。

診断の用いるJIA分類基準では、全身型JIAは、1カ所以上の関節炎と2週間以上続く発熱(うち3日間は連続し、時に関節炎に先行する)を伴い、1:暫時の紅斑、2:全身のリンパ節腫脹、3:肝腫大または脾腫大、4:漿膜炎の徴候のうち1つ以上を認めるものと定義されています。

治療と経過

治療は、疾患が発症後の急性期には発熱や疼痛など全身の炎症の抑制が目標となります。ステロイド薬が治療の中心ですが、非ステロイド性抗炎症薬(Nonsteroidal anti-inflammatory drugs: NSAIDs)が有効であることもあります。本邦では、小児患者さんへのNSAIDsの保険適用は、イブプロフェンとナプロキセンのみですが、まずはこれらの使用を検討します。NSAIDsが無効な場合、大量の副腎皮質ステロイドの投与を行い炎症の抑制を目指します。寛解導入療法として、ステロイドパルス療法(大量療法)を用います。その後、維持療法として、副腎皮質ステロイドの内服を1日1回もしくは2回に分けて継続します。全身性の炎症が治まってから、副腎皮質ステロイド薬の減量を開始しますが、減量の過程で再燃することがあるため、症状や検査の値を確認しながら漸減します。

副腎皮質ステロイド薬は長期の投与に及ぶため、骨粗鬆症などの合併症予防や経過観察を行います。炎症を十分に抑えながら投与量を少なくし、お子さんの成長期における副腎皮質ステロイドの副作用の影響を最小限にする治療選択を心がける必要があります。

副腎皮質ステロイドを適切に使用しても炎症が抑制できない疾患の活動性が高く、減量が困難な場合には、生物学的製剤を導入します。現在、本邦で全身型JIAに保険適用が承認されている生物学的製剤は、抗ヒト化ヒトIL-6受容体抗体トシリズマブ(アクテムラ®︎)とヒト型ヒトIL-1βモノクローナル抗体カナキヌマブ(イラリス®)の2剤です。生物学的製剤が必要になる場合、まずはトシリズマブを選択します。

表 全身型JIAに適応を有する生物学的製剤一覧

一般名 トシリズマブ カナキヌマブ
商品名 アクテムラ ®
80mg、200mg, 400mg/バイアル
イラリス®
150mg/バイアル
標的分子 IL-6 レセプター IL-1β
投与経路 点滴 皮下注射
1回投与量 8mg/kg 4mg/kg
投与間隔 2-4週毎 4週毎

 

トシリズマブ投与中は、発熱や炎症反応の上昇が抑制されるため、感染症には十分な注意が必要であり、咳嗽、鼻汁過多といった気道症状や嘔吐下痢などの消化管症状を認めた場合は早期の病院受診と適切な対応が求められます。カナキヌマブは、トシリズマブで効果が乏しい場合、また副作用で使用困難な場合に選択されます。カナキヌマブの投与中は、同様に感染症や好中球減少症に注意が必要です。全身症状が落ち着いた後は副腎皮質ステロイドを減量を進めながら、再燃予防、関節破壊の予防による機能障害の抑制が目標となります。

全身型JIAは経過が良好な場合には、治療を終了することも可能です。全身型発症関節炎に移行した場合には関節炎に対して治療の継続が必要です。成人になっても医療の継続が必要になることもあります。

合併症

炎症性サイトカインの異常がさらに強くなりサイトカインストームという状態になると、高熱が続き、血液検査で白血球数や血小板数の低下、凝固線溶系の異常、急速な多臓器の障害を起こす、マクロファージ活性化症候群 (macrophage activation syndrome: MAS)に進行する場合があります。全身型JIAの少なくとも7%の患者さんがMASを合併し、大変重篤な状態に至る場合があるため、全身型JIAの経過中には常にMASの発症に留意する必要があります。MASの治療はサイトカインの過剰状態を沈静化することです。ステロイドパルス療法を早期に使用します。デキサメタゾンパルミチン酸エステル(リメタゾン®)も有効です。炎症性のサイトカインによって活性化されたTリンパ球を抑制し、ミトコンドリアの障害を予防するため、免疫抑制剤シクロスポリンも選択されることがあります。これら免疫抑制療法で効果が十分でない場合、単純血漿交換療法が有効ですが、重症化しないより早期の段階で診断し適切に治療を進めることが求められます。

 

関連する外部リンク

「若年性特発性関節炎」に関する、日本リウマチ学会の一般の方向けのご説明は こちら

文責 岸 崇之、谷 諭美
2022年10月5日更新

追記 本田 卓
2023年7月25日更新