東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター
外来診療予約

関節リウマチの研究

1)CORRECT (Clinical outcomes of Japanese rheumatoid arthritis patients in real world commencing targeted therapy, CORRECT)研究

関節リウマチに対する治療はこの10年間で各段に進歩し、早期からの積極的な治療が行われるようになりました。また、早期からの関節リウマチの診断が可能となり、定量的疾患活動性評価尺度の開発が進み、新たな寛解基準も提唱されました。このように関節リウマチの診療環境の変化は非常に早く、また、今後も続々とRAの新規分子標的治療薬が開発・上市される予定であることから、新時代のRAの分子標的治療に関する安全性と有効性に関するエビデンスを確立することは安全な治療を行うために必要不可欠です。
本研究では、分子標的治療薬使用患者及び対照としてメトトレキサート使用患者に関する安全性と治療効果に関する情報を収集し、我が国のRA患者における分子標的治療薬使用の実態およびその短・中期安全性と有効性を明らかにすることを目的とする多施設共同前向き研究です。当研究部門は本研究の研究本部として、症例管理用のWEBシステムを運用しています。今後も引き続き患者登録をすすめ、フォローアップデータを蓄積し、実臨床での分子標的治療薬のベネフィット・リスクバランスに関する解析を行っていく予定です。


2)日本の臨床現場における生物学的製剤未投与の関節リウマチ患者を対象としたアバタセプトの多施設共同による長期的観察研究(ORIGAMI study)

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アバタセプト(CTLA4-Ig)は、ヒトCTLA4の細胞外領域及びヒト免疫グロブリンIgG1のFc 領域で構成される融合蛋白質です。現在までに、国内外で多くの臨床研究が実施されており、メトトレキサートや抗TNF療法に抵抗性の関節リウマチにおける有効性と安全性が確認されています。アバタセプトの全例市販後調査でも、3000例以上の関節リウマチ患者が登録され、安全性と有効性が確認されていますが、観察期間は6ヵ月に限定されていることから長期の安全性と有効性は現在のところ不明です。

本研究において、アバタセプトの長期有効性及び安全性、並びに患者報告アウトカムを実臨床で検討することにより、アバタセプトが患者にもたらす利点を明かにできる可能性があります。また、膠原病リウマチ痛風センターで15年間継続してきたIORRA研究の登録症例から傾向スコアを用いて対照群を抽出し、アバタセプト治療群と比較するという初めての試みも行います。本研究は多施設共同研究として実施し、当研究部門の針谷と山中所長が調整医師として研究全体の舵取りをします。

3)大規模保険データベースを用いた我が国の関節リウマチ患者における合併症リスクの検討

for doctor03関節リウマチは全身性の炎症性疾患です。近年、生物学的製剤の導入により、その薬物治療は劇的に進歩し、生命予後が大きく改善しました。しかしその一方で、感染症や脳心血管疾患、骨折などの生命予後や生活の質に大きな影響を与える合併症のリスクが一般人口と比較して関節リウマチ患者で高いことが危惧されています。
関節リウマチ患者におけるこれらの合併症の頻度やリスク因子を明らかにするため、保険データベースを用いた詳細な解析を実施しています。

 

4)抗リウマチ薬による重症副作用に関する遺伝子解析研究

関節リウマチ(RA)の治療においては、アンカードラッグとして位置づけられるメトトレキサート(MTX)は、最も頻用され、近年、その用量が16mg/週まで増量可能となり、有効性における重要性が高まる一方で、安全性に対する配慮がより重要となっています。特に、MTXによる薬剤性肺障害は、約1%の頻度で起こり、急性に発症・進展し、時に致死的な呼吸障害を起こし得る重症な副作用の一つです。
また、サラゾスルファピリジン(SASP)は、有効性の高い抗リウマチ薬としてMTXについで頻用されますが、副作用として、皮疹が4~5%の頻度で起こり、Steven Johnson症候群、中毒性表皮壊死症(TEN)、薬剤過敏症(DIHS)といった重篤な皮膚疾患として発現する場合もあり注意が必要です。
このような2つの重篤な副作用を発現したRA症例を集積し、ゲノム解析を行い、日本人における遺伝的背景を明らかにすることを目的にこの研究が計画、実施されています。

5)関節リウマチにおけるPAD4に関する研究

日本人関節リウマチ患者のゲノムワイド関連解析から疾患感受性を規定する遺伝子の一つとしてPeptidylarginine deiminase 4 (PAD4)遺伝子が同定されています。PAD4は蛋白のシトルリン化を担う酵素であり、RAに特異的な抗シトルリン化蛋白抗体の発現と密接に関連していると考えられています。本研究では関節リウマチ患者の血清中および好中球細胞質中のPAD4を測定し、病型、自己抗体、遺伝子多型との関連性を検討しています。本研究は東京都立健康長寿医療センターの石神昭人博士、杉原毅彦博士との共同研究です。

6)関節リウマチ患者における免疫抑制療法下のリンパ増殖性疾患の全国疫学研究

for doctor04関節リウマチでは悪性リンパ腫(以下、リンパ腫)の頻度が一般人口よりも高いことが世界各国の疫学研究により明らかにされています。また、メトトレキサート(MTX)は関節リウマチのアンカードラッグとして広く使用されています。リンパ腫を含むリンパ増殖性疾患(LPD)がMTX使用の有無に関わらず認められることから、これらの合併症は関節リウマチ患者における重要な合併症と位置づけられます。

しかし、我が国の関節リウマチ患者におけるこれらの合併症の頻度に関する全国規模の臨床疫学研究はこれまで実施されておりません。関節リウマチに対するMTX承認用量上限が16mg/週に引き上げられた現在、関節リウマチ患者におけるリンパ腫を含むLPDの現状を把握し、その対策を講じることは関節リウマチ患者の中・長期的予後の観点から喫緊の課題と考えられます。
そこで(社)日本リウマチ学会の教育研修施設として認定されている医療機関を中心に実施する本研究を計画し、現在データを集積しています。

7)厚生労働科学研究費厚生労働行政推進調査事業補助金(免疫アレルギー疾患等政策研究事業)我が国の関節リウマチ診療の標準化に関する臨床疫学研究(研究代表者:針谷正祥)

本研究はわが国の関節リウマチ(RA)診療の現状と問題点を解析し、わが国のRA診療ガイドラインの改訂を通じて、今後のリウマチ対策の改訂およびRA患者のQOL向上に寄与することを目的としています。我が国の関節リウマチ診療ガイドラインは2014年に日本リウマチ学会から公表されましたが、その後、バイオシミラーを含む新たな生物学的製剤、ヤヌスキナーゼ阻害薬等が上市され、MTX・生物学的製剤の使用頻度が増加し、診療実態が大きく変わりつつあります。また、関節リウマチ診療に携わる中小病院、診療所が増加し、それらの医療機関で診療を受けるRA患者が増えつつあります。一方で、MTX使用頻度の増加に伴って、中・長期的重篤有害事象として、リンパ増殖性疾患が注目されるようになりました。本研究では、ナショナルデータベースの解析、RA関連リンパ増殖性疾患の解析、RA診療ガイドラインの改訂を並行して実施し、それらを統合することによって、リウマチ専門医の知識および治療技術の向上を通じて、RA患者QOLの改善に寄与します。


血管炎の研究

1)抗好中球細胞質抗体関連血管炎の関連遺伝子に関する研究

抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎は指定難病の一つです。ANCA関連血管炎では、主として小型血管の炎症により多臓器が障害され、血液中には高い頻度でANCAが検出されます。日本におけるANCA関連血管炎と欧米におけるこれらの疾患を比較すると、疫学や臨床像において大きな違いが認められることから、その疾患感受性遺伝子にも違いがあることが予想されます。

本研究は、「難治性血管炎に関する調査研究班」による「MPO-ANCA関連血管炎に関する前向き臨床試験(JMAAV試験)」、「抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の寛解導入治療の現状とその有効性と安全性に関する観察研究(RemIT-JAV)研究」、「抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎・急速進行性糸球体腎炎の寛解導入治療の現状とその有効性と安全性に関する観察研究(RemIT-JAV-RPGN研究)」に登録されたANCA関連血管炎患者および協力施設を受診したANCA関連血管炎患者のDNAを収集し、ゲノムワイド関連解析を実施しています。

2)本邦における抗好中球細胞質抗体関連血管炎に対するリツキシマブ療法の安全性と有効性に関するコホート研究

多発血管炎性肉芽腫症(GPA)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)は、小血管(細小動静脈・毛細血管)の壊死性血管炎と高いANCA陽性率を共通の特徴とする全身性血管炎疾患群です。これらに対するリツキシマブ(RTX)の有効性が海外におけるランダム化比較試験で報告され、RTXが難治性のANCA関連血管炎の治療薬として必要不可欠であることから、本邦でもGPAおよびMPAに対する治療薬として公知申請されました。しかし、本邦ではANCA関連血管炎に対するRTXの治験は実施されておらず、GPA、MPAに対するRTXに関しては、本邦では全国規模でのエビデンスが存在しないまま使用され続けられています。

そこで、厚生労働科学研究費補助金事業 難治性血管炎に関する調査研究班によって、MPAとGPAに対するRTXの有効性と安全性を検討し、治療成績を更に向上させる目的でこのコホート研究が計画、実施されています。

3)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)難治性血管炎に関する調査研究班 (JPVAS)

本研究班は、9つの難治性血管炎疾患を主な研究対象とし、これらの疾患の診断基準、重症度分類、診療ガイドライン等の作成・評価・改訂に資する研究を実施し、難治性血管炎の医療を更に向上させることを目的としています。9疾患は、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、結節性多発動脈炎、悪性関節リウマチ、抗リン脂質抗体症候群、バージャー病、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎です。本研究では、血管炎の啓発活動、診療体制の充実、診療ガイドラインの作成・改訂、重症度分類基準の改訂、各種血管炎疾患のコホート研究、海外との国際共同研究を幅広く進めています。また、小児血管炎の専門家にもご参加頂き、小児血管炎疾患の研究、小児から成人への診療の移行(移行期医療)に関する検討も進めています。

4)公益社団法人日本医師会臨床研究・治験推進研究事業費 顕微鏡的多発血管炎および多発血管炎性肉芽腫症に対するトシリズマブの有効性、安全性、薬物動態に関する医師主導治験

我が国のANCA関連血管炎は顕微鏡的多発血管炎が7割以上を占め、間質性肺炎、腎障害の頻度が高く、副腎皮質ステロイド(以下、ステロイド)単独治療が行われる割合が高いことがこれまでの研究で明らかにされています。その結果、再発率が高く、ステロイド関連副作用の頻度も高くなっています。これらの問題点を克服するために、顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症の病態形成に関連する特定の分子を標的とする新規治療法開発が求められています。そこで、私どもは全国の10医療機関と共同で、「顕微鏡的多発血管炎および多発血管炎性肉芽腫症に対するトシリズマブの有効性、安全性、薬物動態に関する医師主導治験」を開始しました。この医師主導治験では、初発・再発を問わず疾患活動性の高い顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症患者に対するトシリズマブ点滴静注+プレドニゾロンの有効性を検討し、安全性と薬物動態を確認します。ただし、プレドニゾロンは高用量で開始し、減量速度を従来よりも速く規定したスケジュールで投与し、寛解導入期のプレドニゾロンの総投与量を従来よりも低用量に抑えることとします。試験デザインはランダム化非盲検並行群間比較試験で、標準治療であるエンドキサン点滴静注療法+プレドニゾロンに対するトシリズマブ点滴静注+プレドニゾロンの非劣性を証明します。主要評価項目は、治療開始後20週および24週のvisit時点でBVAS v3=0、24週のvisit当日の処方がPSL 7.5mg/日を達成した患者の割合です。

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5)JPVAS血管炎前向きコホート研究【RADDAR-J [22]】

東京女子医科大学をはじめとした、全国50施設以上の血管炎診療・研究を専門に行なっている施設が参加する大規模なレジストリ研究です。より多くのANCA関連血管炎、巨細胞性動脈炎、高安動脈炎患者さんの経過や診療内容などの臨床情報と生体試料を収集し、持続的・長期的に評価項目の検討を行い、ANCA関連血管炎、巨細胞性動脈炎、高安動脈炎の病態・治療法の解明に結び付けていくことを主な目的としています。今後収集されたデータが解析され、血管炎診療の進歩に役立つ成果が発信されることが期待されています。

 


全身性エリテマトーデスの研究

全身性エリテマトーデス(SLE)は自己免疫異常により抗dsDNA抗体などの自己抗体の産生を伴い、皮膚、腎臓、関節、中枢神経など全身の多彩な症状を呈する全身性慢性炎症性疾患です。SLE患者の生命予後は、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を中心とした治療法の進歩により大きく改善しました。その背景としてステロイドパルス療法や免疫抑制薬の治療法が確立し、血液透析や血漿交換法などの支持療法の普及が寄与していると考えられます。また、我が国ではループス腎炎に対して2007年にタクロリムスが、2016年にミコフェノール酸モフェチルがそれぞれ追加承認され、2015年にヒドロキシクロロキンがSLEに承認され、その治療法は大きく変遷しました。しかしながら、感染症をはじめとする合併症のリスクは一般人口と比較して高く、SLEの診療実態を明らかにすることは診療の改善につながることが期待されます。そこで、急性期医療病院の保険データベースを使用し、ステロイドパルス療法と血栓リスクとの関連性や、脳心血管疾患のリスク、感染症リスクなどに関する研究を実施しています。


その他リウマチ性疾患に関する研究

1)リウマチ性疾患患者における酸化アルブミンに関する研究

アルブミンはN末端から34番目のシステイン残基の状態によって酸化型アルブミン(human nonmercaptalbumin; HNA)と還元型アルブミンに分けられます。総アルブミンに占めるHNAの比率は酸化ストレスの指標であり、加齢や慢性腎不全で増加し、動脈硬化とも関連することが明らかにされています。関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)患者では動脈硬化が進行しやすく、様々な参加ストレスマーカーの増加が報告されていますが、これの疾患においてHNAが増加するかどうかは明らかではありません。そこで本研究は、RA、SLE患者のHNA比率を健常者と比較し、これらの疾患の患者のHNA比率と関連する因子を検討しています。


変形性関節症の研究

1)変形性膝関節症に関する保険データベースを用いた日韓比較研究

変形性関節症(OA)は関節疾患の中で最も有病率が高く、45歳以上の約25%が罹患しており、日本のような超高齢社会において社会的損失の大きな疾患の一つです。OAのうち、変形性膝関節症は関節軟骨の破壊と減少が進行すると膝関節置換術(TKR)の施行につながることもあります。2012年にアメリカリウマチ学会よりOAに対する薬物治療および非薬物治療に関するリコメンデーションが発表され、薬物治療として、NSAIDsの経口投与が推奨されています。しかしながら変形性膝関節症患者の治療の実態やTKRの施行割合に関する国際的な疫学研究はなされておりません。
そこで本研究は日本と韓国の保険データを用いて、変形性膝関節症における薬物治療およびTKR施行の実態を記述、比較することを目的に現在、解析を進めています。