東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター
外来診療予約

膝関節の障害

ope tka

薬物療法などの保存的治療を行っているにもかかわらず、関節リウマチによる関節の痛みが残ってしまう患者さんは少なくありません。多くの関節で人工関節の手術が可能ですが、人工膝関節置換手術はその中で最も成績が安定し、治療法として確立しているものの一つです。当院でも数多くの人工関節置換手術を行っていますが、その多くが関節リウマチの患者さんであり、関節リウマチ患者さんに対する経験が非常に豊富であることがその特色としてあげられます。また最小侵襲手術 (MIS) の考え方を取り入れており、出来るだけ患者様の身体に負担が少なくなるよう小さなキズで手術を行っています。

膝関節の構造と機能

2膝関節は大腿骨、脛骨、膝蓋骨という3つの骨からなる関節で、曲げたり、伸ばしたり、ひねったりすることができ、さらに自分の体重を支える重要な関節です。膝関節の破壊が進行すると膝が変形し、強い痛みを生じ、関節の動きが悪くなります。また歩行機能が低下することにより、日常生活動作に著しい支障をきたします。歩行機能の低下は全身状態の悪化につながる可能性もあります。

人工膝関節置換手術

損傷している膝関節の骨の一部を取り除き、代わりに人工の膝関節に置き換える手術です。以下のような方が手術の適応となります。

  1. 痛みがひどく、日常の生活に支障をきたしている方。
  2. 保存的な治療では痛みが改善されない方。
  3. 膝関節の動きが悪い方(まっすぐ伸びない、あまり曲げられないなど)。
  4. レントゲン検査で、骨が著しく変形している方。

設置した人工膝関節の耐用年数は患者さん毎に異なりますが、一般的に3/4程度の患者さんは20年以上持つと言われています。長い人生の中で、入れ替える手術が必要となる場合があるため、以前は比較的高齢者にこの手術が行われる傾向がありました。しかし最近は、患者様の価値観やQOL(生活の質)が尊重されるようになり、20歳代、30歳代で人工膝関節置換手術を受ける患者さんも増えてきています。

手術のながれ

手術は通常全身麻酔で行い、手術を受ける前にはいくつかの準備が必要です。手術の前日(手術前日が休日の場合は2~3日前)に入院し、レントゲン、心電図、血液検査、CTなどの必要な検査を行います。手術は膝関節前面の皮膚を8~15cm程切開します。滑膜や膝関節の損傷している部分を取り除き、人工関節に置き換えます。膝関節の損傷の程度にもよりますが、手術は通常1~2時間程度かかります。

手術翌日から座って食事をとることができ、2日後には車椅子乗車や立ちあがる練習、膝を動かすリハビリが始まります。その後歩行練習も始まります。術後の経過にもよりますが、入院は通常術後3週間で、杖歩行あるいは杖無しでの歩行で退院します。

退院後は定期的に外来に通院していただき、必要に応じてリハビリを継続します。完全に手術の影響なく日常生活を送れるようになるには術後約2~3カ月かかります。

 > 患者用パス(人工膝関節手術)

患者さんの声

TNさん 58歳(手術時)、男性、関節リウマチ

私はリウマチ歴25年の患者です。発症当時は強力な効果のあるリウマチの薬はなかったこともあり、現在では両方の膝関節と右の股関節が人工関節になりました。これから人工関節の手術をする方、または将来する可能性のある方に、手術を経験した患者の一人の私見として、一言“アドバイス”を述べさせていただき、他のリウマチ患者さんの一助になれば幸いです。

先生が貴方のレントゲン画像をジーと見て、先生から「これは手術した方がいいですね」と聞いた時、ほとんどの方は頭の中が真っ白になるのではないでしょうか?たとえうすうす予想はしていたとしても、現実に言われると困惑してしまうのはやむを得ないことです。おそるおそる「どんな手術でしょうか?」と先生にうかがって、手術の内容や手順などを説明されても、半分も記憶に残らないと思います。「とにかく、家族と相談してからにします」と言って帰路に様々な考えがよぎるかもしれません。「まだ痛い時は我慢すれば何とかなる」「もっと強い痛み止めをもらおう」「我慢できなくなったらその時に手術しても遅くないんじゃないか」などなど、とにかく手術を少しでも延ばそうと考えます。

ところがこれが大きな「落とし穴」なのです。リウマチで関節が痛み手術が必要な状態とは何でしょうか?関節の軟骨がリウマチの炎症でほとんどなくなり、骨と骨が直接すれあうことで激痛が起こります。ですから痛い方の足を庇ってしまったり、引きずって歩いたり、歩行のバランスが極端に悪くなります。こうなると庇っている方の筋肉も衰えて来ます。関節を動かしているのは筋肉の力です。この筋肉が弱ってしまうと例え人工関節の手術をしても関節は思うように動かせません。一度弱ってしまった筋力を回復させるために手術後「リハビリ」が必要となります。しかし筋力が弱くなればなるほどリハビリは大変で長期になります。リハビリの先生がそれぞれの患者さんに合わせたリハビリの方法を教えてくれますが、実際行うのは自分自身なのです。例えば膝の人工関節は130度以上曲げられる構造になっているそうです。しかし、それを曲げる力は自分自身の筋力です。ですから筋力がなるべく弱くならない時点で手術を行った方が手術後のリハビリ期間や歩行もスムーズになるということです。

「手術を進められ」→「なんとか延ばす言い訳を探し」→「どうしても我慢できなくなって」→「先生!手術してください」→「リハビリが大変」という患者になってほしくないのです。セカンド・オピニオンを受診されても良いと思います。不安な事は全て先生にご自身が納得するまで質問して良いので、先生から「手術が必要」と言われたらなるべく早く手術の決断してください。そして術後が順調で短期間のリハビリで済む様に、皆さんが「手術して良かった」となっていただくには「手術のタイミングがとても大切」であるとアドバイスさせていただきます。(2015.8.20)

 

文責 猪狩勝則
2015年9月1日改筆