全身性エリテマトーデス(SLE: systemic lupus erythematosus)とは、発熱、全身倦怠感などの全身的な炎症と、関節、皮膚、内臓などのさまざまな臓器の障害が一度に、あるいは次々に起こってくる病気です。その原因は、今のところわかっていませんが、免疫の異常が病気の成り立ちに重要な役割を果たしています。20〜40歳代の女性に好発する病気で、日本全国に6万人以上の患者さんがいると考えられています。皮膚の症状としてもっとも有名なのは、頬にできる赤い発疹(頬部紅斑)で、蝶が羽を広げている形をしているので、蝶型紅斑(ちょうけいこうはん)とも呼ばれています。また、表皮の角質層が厚くなりやがて剥がれて脱落する「角化性鱗屑」を伴う隆起した紅斑(円板状エリテマトーデス)も、この病気に特徴的で、顔面、耳、首のまわりなどに好発します。光線過敏症、口内炎、脱毛、関節炎などが生じることもあります。 臓器障害としては、様々なものが知られており、血球減少症、胸膜炎、心膜炎、腎炎、精神神経障害などがあります。ただし、これらすべての症状が起こるわけではなく、患者さん一人一人によって、出てくる症状、障害される臓器の種類や程度が異なります(内臓の障害がまったくない、軽症の患者さんもいます)。
診断
医師による診察と、血液検査や画像検査、病理検査などを組み合わせて、総合的に診断されます。一般的には、米国リウマチ学会の分類基準(1997年版)に基づいて診断されますが、絶対的な基準ではありません。また、2019年9月に、欧州・米国リウマチ学会共同の新しい分類基準が正式に発表されました(下表、Ann Rheum Dis. 2019;78:1151)。日本の指定難病の診断基準は、現時点では1997年版に準じていますが、将来的にはこの新しい基準が用いられる可能性があります。血液検査では、一般的に「抗核抗体」が陽性となり、そのほか、抗dsDNA抗体や補体などに異常値が出ることがあります。典型的な症状の場合の診断はそれほど難しくはありませんが、軽症例や発症早期では、なかなか診断にたどりつかなかったり、関節リウマチなどほかの病気と診断されて治療されてしまっていることもあります。
※日本語訳は本稿執筆者によります(一部、基準の定義も追記しております)
治療
全身性エリテマトーデスと診断されたら、「低疾患活動性(LLDAS)」(この後の項で解説しています)や「寛解」と呼ばれる状態を目標に、治療されます。病気の重症度や症状の出方にはかなり個人差があり、それに応じた治療がなされます。基本となるのは、ステロイド(プレドニゾロンなど)による薬物治療ですが、ステロイド単独では治療が難しい場合や、ステロイドの使用量を減らしたい場合には、ミコフェノール酸モフェチル(後述)やシクロホスファミドやアザチオプリン、タクロリムス、シクロスポリンのような免疫抑制薬が併用されることもあります。また、欧米では原則的にすべてのSLE患者さんが服用すべきとされている、ヒドロキシクロロキン(後述)も、日本でも使われることが増えています。皮疹に対しては、遮光および外用薬による治療が第一選択です。さらに、最近、生物学的製剤と呼ばれる種類の注射薬が新しく保険適応になっています(この後の項で詳しく解説しています)。診断や治療の進歩によって、以前に比べると予後は改善されましたが、非常に難治な患者さんもいまだにめずらしくはありません。また、感染症や骨壊死・骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などの治療に関連した古典的合併症に加えて、近年では動脈硬化性の合併症(心筋梗塞など)の適切なコントロールが重要となってきています。
治療に使うステロイドの量
全身性エリテマトーデスの薬物治療の中心は、ステロイド(プレドニゾロンなど)ですが、治療の初期用量、その後の減量方法、再燃防止のために内服する維持量については、症状の内容や程度によっても異なります。また、医師や国・地域による考え方の違いもあり、必ずしも同じではありません。欧米では、病状や体格によっても異なりますが、腎炎など重篤な病態であれば、点滴による大量のステロイド静脈注射(パルス療法)で治療を開始し、引き続き1日あたり20~30 mg程度のプレドニゾロン内服を4週間ほど続け、その後ゆっくり減量することが一般的となっています。このステロイドの使い方は、昔に比べると少ない内服量なのですが、これは初期からほかの免疫抑制薬などを併用することによって達成されます。なお、パルス療法や免疫抑制薬の併用をしない・できない場合や、特殊な病態では、より多くのステロイドが必要になることもあります。経過が順調であれば、数か月後には、プレドニゾロン換算で1日あたり7.5 mgまで減らされていることを目標とします。この7.5 mgという量は、次の項で解説している「低疾患活動性(LLDAS)」を達成する必要条件でもあります。当施設においても、最近は、このような方針に従って治療しています。
例として、2012年~と、2017年~に、SLEのループス腎炎に対して行われた2つの国際的な治験における、ステロイドの減量方法と、2024年の国際的な腎臓病のガイドラインで示された減量法を、図示しました。グラフの縦棒は、1週間ごとのプレドニゾロンの量です(体重が60 kgの患者さんを想定しています)。この数年間の間にも、国際的には、ステロイドの初期量が減り、減らし方が早くなっていることが、おわかりになるかと思います。なお、当施設では、患者さんの病態や合併症に応じて、このグラフの「KDIGO削減用量」と「KDIGO中等用量」、ないしその中間的な方法で、治療しています。なお、これらの経口ステロイド開始の前に、点滴のステロイドパルス療法を1~3日間行うことが一般的です。
低疾患活動性(LLDAS: Lupus Low Disease Activity State)
2016年頃から世界的に提唱されている、全身性エリテマトーデスの病勢コントロールの目標です。この基準を達成している期間が長いほど、長期的な障害が少なく、かつクオリティ・オブ・ライフ(QOL)も向上することが示されています。この基準の意義を証明するための前向き研究には、日本からは当施設が参加し、多くの患者さんにご協力頂きました(Lancet Rheumatol. 2019;1:e95)。
※以下の5項目すべて満たした状態を、全身性エリテマトーデスの「低疾患活動性(LLDAS)」と定義します。「SLEDAI-2K」は疾患活動性の指標、「SELENA-SLEDAI PGA」は医師による病勢の評価です。
1. SLEDAI-2K≦4、かつ主要臓器(腎、中枢神経、心臓・肺、血管炎、発熱)にSLEDAI活動性なし、消化管の活動性なし、溶血性貧血なし
2. 以前の評価に比べて、SLE疾患活動性の新規特徴なし
3. SELENA-SLEDAI PGA≦1 (0-3 scale)
4. プレドニゾロン用量≦7.5 mg/日
5. 耐容性良好である、標準的な維持量の免疫抑制薬and/or承認された生物学的製剤、ただし臨床試験中の薬は除く
保険適応となった新しい治療
ミコフェノール酸モフェチル: ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®カプセル)は、2015年7月31日の薬事審議会において、公知申請を行っても差し支えないとの結論が得られ、同日より、実地診療における使用について保険適用が可能となりました。さらに、2016年5月、効能・効果「ループス腎炎」が正式に追加となりました。ミコフェノール酸モフェチルは、欧米のループス腎炎のガイドラインでは、ステロイドに加える免疫抑制薬としては第一選択薬に位置づけられていましたが、本邦では全身性エリテマトーデスには保険適応はなく(腎移植に対しては1999年から保険適応がありました)、長らく処方できませんでした。本邦でもようやく正式に処方できるようになり、当施設でも、治療選択肢の1つに加え、既に多くの患者さんに処方しています。高い有効性が期待される一方、「妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと」とされていますので、注意が必要です。
ヒドロキシクロロキン: ヒドロキシクロロキン硫酸塩(プラケニル®錠)は、欧米での全身性エリテマトーデスの治療ガイドラインにおいて、標準的な治療薬として位置付けられています。しかし、本剤はこれまで本邦においては未承認薬であったため、医師による個人輸入により治療に用いられてきました。厚生労働省から開発要請を受けた製薬会社が承認申請のための臨床試験を世界で始めて日本にて実施し、2015年9月7日に、ようやく発売となりました。特に皮膚症状・倦怠感などの全身症状・筋骨格系症状などがある場合が良い適応とされています。全身性エリテマトーデスの再燃を防ぐ効果もあります。感染症のリスクを上げないことも特徴です。また、妊娠・授乳をしている女性にも比較的安全に使うことができるとされています。ただし、本剤の投与に関しては、エリテマトーデスの治療経験をもつ医師が、特有の副作用である網膜障害に対して十分に対応できる眼科医と連携のもとに使用すべきとされていますので、注意が必要です。当施設においては、眼科と連携し、万全の体制のもとに、処方しております。
ベリムマブ: ベリムマブ(ベンリスタ®皮下注オートインジェクター・シリンジ、ベンリスタ®点滴静注用)は、生物学的製剤(抗体医薬品)に分類されるお薬です。本邦では、2017年12月に発売されました。全身性エリテマトーデスの患者さんの血液中にはB細胞活性化因子(BAFF)というタンパク質が過剰に存在することにより、自分の体を攻撃する免疫細胞が産生されてしまうことが知られています。ベリムマブはBAFFの働きを抑えることで、全身性エリテマトーデスの疾患活動性の抑制が期待できます。原則4週間毎に病院で点滴するやり方と、ご自宅で毎週皮下注射するやり方があり、当施設においては、いずれも実施しております。ステロイドや免疫抑制薬と併用されることが多いですが、ベリムマブを使うことによって、これらの薬を減らしたり止めたりすることも期待できます。さらに、ループス腎炎の初期治療に併用することで治療成績が向上することが臨床試験で示されており、当施設でもそのような使い方をすることがあります。従来のステロイドや免疫抑制薬と同様に、全身性エリテマトーデスの原因となる自己免疫だけでなく、感染症に対する抵抗力も抑制しますので、感染症に対する注意が必要です。そのほかのおもな副作用としては、注射製剤なので、注射に伴う投与時反応や注射部位反応が起きることがあります。
アニフロルマブ: アニフロルマブ(サフネロー®点滴静注)も、生物学的製剤(抗体医薬品)に分類されるお薬です。本邦では、2021年11月に発売されました。細胞にあるⅠ型インターフェロンという免疫系および炎症の調節などの働きをするサイトカイン(生理活性蛋白質)の受容体に結合し、全身性エリテマトーデスの疾患の活動を抑えて、症状を改善します。全身性エリテマトーデスの発症において、Ⅰ型インターフェロンは中心的な役割を果たしていると考えられています。4週間毎に病院で点滴します。当施設においてはおもに外来で点滴しております。原則的に、ステロイドや免疫抑制薬に上乗せして使用されますが、アニフロルマブを使うことによって、これらの薬を減らしたり止めたりすることも期待できます。従来のステロイドや免疫抑制薬と同様に、全身性エリテマトーデスの原因となる自己免疫だけでなく、感染症に対する抵抗力も抑制しますので、感染症に対する注意が必要です。特に、帯状疱疹について注意する必要があります。そのほかのおもな副作用としては、注射製剤なので、注射に伴う投与時反応や注射部位反応が起きることがあります。
リツキシマブ: リツキシマブ(リツキサン®点滴静注)も、生物学的製剤(抗体医薬品)に分類されるお薬です。ヒトB細胞表面に発現するCD20抗原に結合し、補体依存性細胞傷害作用、抗体依存性細胞介在性細胞傷害作用により、B細胞を除去することがおもな作用機序と考えられている、マウス−ヒトキメラ型モノクローナル抗体です。リツキシマブは、適応外医薬品としてではありますが、ループス腎炎の寛解導入を目的として国内外の臨床現場で広く使用されており、海外のガイドラインにおいては、既存治療抵抗性のループス腎炎の寛解導入に推奨されています。今般、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において、リツキシマブのループス腎炎の公知申請の事前評価が終了し、公知申請を行って差し支えないと判断されました。薬事承認上は適応外とはなりますが、2023年3月3日付けで保険適用となりました。9月頃に薬事承認が取得される予定です。寛解導入時には、通常、リツキシマブとして1回量375 mg/m2を1週間間隔で4回点滴静注します。なお、リツキシマブは、海外では、1997年11月に悪性リンパ腫治療薬として承認され、日本では2001年6月に「CD20陽性の低悪性度又はろ胞性B細胞性非ホジキンリンパ腫ならびにマントル細胞リンパ腫」に対して承認されました。その後いくつかの疾患に対して効能追加されています。従来のステロイドや免疫抑制薬と同様に、全身性エリテマトーデスの原因となる自己免疫だけでなく、感染症に対する抵抗力も抑制しますので、感染症に対する注意が必要です。そのほかのおもな副作用としては、投与時反応が起きることがあります。また、リツキシマブを投与予定の患者さんが各種ワクチンを接種する際には、リツキシマブ投与の2~4週間前にワクチン接種を行うことや、リツキシマブ投与から6か月あけてワクチンを接種することが推奨されています。
当施設における治療
当施設外来には、この病気を持つ患者さんが400人以上通院中です。当科病棟には、入院治療中の患者さんが常におられます。皮膚科や腎臓内科などとも連携して、専門的かつ全人的な最新治療を行っております。初発やその疑いの患者さんだけでなく、転居されて新たな担当医を探している方も、まずは、当科の初診外来を受診してください(初診外来に関するページはこちら)。専門外の先生方からのご紹介、重篤な患者さんの入院についても、迅速対応させて頂いておりますので、是非ご連絡ください(ご紹介に関するページはこちら)。
また、当施設は、大学病院かつ多くの患者さんを診療している施設の使命の一環として、さまざまな臨床研究を行っていますが、近年は、患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcome: PRO)という患者さん視点に立脚した指標を用いた研究や、「The Asia Pacific Lupus Collaboration (APLC)」という国際多施設共同研究に力を入れています。これらは、患者さん目線での診療や、国際レベルの医療を提供することにも役立っています。
関連する外部リンク
医療費助成制度などが記載されている、難病センター(厚生労働省補助事業)のページは こちら
薬の適正使用協議会による生物学的製剤(抗体医薬品)の説明は こちら
文責 勝又康弘
2024年4月13日 更新