一般に、30年以上前に発表された米国リウマチ学会の分類基準(1987年)がよく知られていますが、これはあくまでも臨床研究を行うために患者を均一化するための分類基準であって、診断基準ではありません。確実に関節リウマチであると分類するのが目的のため、特に関節リウマチの初期の状態での診断には使えないことが多いと言われています。
近年、発症早期から強力な抗リウマチ薬で治療を開始すれば関節の破壊を抑えられることが多くの研究で証明され、早期診断の重要性が叫ばれるようになってきました。そのため新しい診断基準の策定が待たれていましたが、2009年の米国リウマチ学会において、欧州リウマチ学会との共同作成による新しい関節リウマチ分類基準(試案)が発表され、若干の改定を経て翌2010年に論文化されました(2010ACR/EULAR関節リウマチ分類基準、下表)。今回の改定は、早期に抗リウマチ薬による治療開始が必要な患者を同定することも意図したものなので、早期診断には極めて有用だと考えられています。
ただし今回の新しい基準もあくまでも分類基準です。この基準に合わない関節リウマチ患者も、この基準には合致するが関節リウマチでない症例もありえます。またこの新基準を使うためには一定の診療技術も要求されます。滑膜炎による関節腫脹を診断し、適切な鑑別診断を行った上で、関節腫脹が他の疾患によるものでないと判断出来るかどうか。X線上の骨びらんが関節リウマチによるものか診断出来るかどうかなどが、関節リウマチと診断を行う上で大切になります。
「診断と検査」の項でも触れていますが、最近は、早期に診断するための検査技術も進歩しています。病歴、身体所見(関節の腫れがあることが重要)、抗CCP抗体などの血液検査、関節エコーや関節MRIなどの画像検査などを総合的に判断して診断する必要があります。
当センター所属医師はリウマチ内科専門医ともにリウマチ整形外科専門医、小児リウマチ専門医などのリウマチ専門医が、炎症性関節炎患者さんを多数診断・治療しており、関節リウマチの診断には自信と実績があります。関節炎でお困りの患者様は是非当センターでの診療を受けてみて下さい。
*当センターでは関節リウマチの外来診療を整形外科、内科の別なく行っております
2010 ACR/EULAR 関節リウマチ分類基準
>The 2010 ACR-EULAR classification criteria for rheumatoid arthritis
- この基準は関節炎を新たに発症した患者の分類を目的としている。関節リウマチに伴う典型的な骨びらんを有し、かつて上記分類を満たしたことがあれば関節リウマチと分類する。罹病期間が長い患者(治療の有無を問わず疾患活動性が消失している患者を含む)で、以前のデータで上記分類を満たしたことがあれば関節リウマチと分類する
- 鑑別診断は患者の症状により多岐にわたるが、全身性エリテマトーデス、乾癬性関節炎、痛風などを含む。鑑別診断が困難な場合は専門医に意見を求めるべきである
- 合計点が5点以下の場合は関節リウマチと分類できないが、将来的に分類可能となる場合もあるため、必要に応じ後日改めて評価する
- DIP関節、第1CM関節、第1MTP関節は評価対象外
- 大関節:肩、肘、股、 膝、 足関節
- 小関節:MCP、PIP (IP)、MTP (2-5)、 手関節
- 上に挙げていない関節(顎関節、肩鎖関節、胸鎖関節など)を含んでも良い
- RF: リウマチ因子。陰性:正常上限値以下、弱陽性:正常上限3倍未満、強陽性:正常上限の3倍以上。リウマチ因子の定性検査の場合、陽性は弱陽性としてスコア化する
- 陽性、陰性の判定には各施設の基準を用いる
- 罹病期間の判定は、評価時点で症状(疼痛、腫脹)を有している関節(治療の有無を問わない)について行い、患者申告による
文責 田中榮一
2023年10月11日更新