東京女子医科大学病院 膠原病リウマチ痛風センター
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メトトレキサートは葉酸代謝拮抗薬

 葉酸とは細胞増殖に関わるビタミンです。関節リウマチ患者さんでは、関節の中で滑膜細胞やリンパ球などの炎症細胞の活動や増殖が活発になっています。メトトレキサートはそれらの細胞が増殖するのに必要な葉酸の働きを抑え、炎症細胞を減少させることで効果を発揮します。
 

メトトレキサートは関節リウマチ診療のアンカードラッグ

 「アンカー」とは船のイカリのことですが、中心的役割を果たしている、信頼がかけられているという意味の言葉として使われています。メトトレキサートは関節リウマチ診療における第1選択薬とされ、関節リウマチと診断されたらまず初めに使うことを考慮されるべき中心的薬剤であると同時に他の薬と組み合わせて使う基本的薬剤であるとされています。
当院でも約7割の患者さんが服用されています(2022年4月時点)。メトトレキサートがよく処方される理由は、関節破壊の進行抑制効果や身体機能障害の改善効果があり、他の抗リウマチ薬と比較し安価で費用対効果に優れているからです。
 

メトトレキサートの服用の注意点

 メトトレキサートは身体の細胞内に長く留まる薬であり、副作用の観点から毎日服用する薬ではありません。週に1日、もしくは2日だけ服用し、それ以外の5、6日は服用しません。また、メトトレキサートを一定の用量以上服用する際には副作用のリスクを軽減させるために、葉酸(フォリアミン®︎)を併用することが推奨されています。葉酸はメトトレキサート服用後24時間〜48時間空けて服用することで、メトトレキサートの効果を維持しながら、副作用のリスクを軽減することが期待できます。
 

メトトレキサートの主な副作用

 メトトレキサートの副作用を理解して、対策・対応することが重要です。あらかじめ担当医と相談しておくようにして下さい。起こり得る主な副作用としては、消化管症状、骨髄抑制、間質性肺炎や、呼吸器感染症を主とした感染症、肝障害、リンパ増殖性疾患が挙げられます。以下にこれらの代表的な副作用について紹介します。
 

消化器症状(嘔吐、食思不振、口内炎)

  メトトレキサートの血中濃度上昇により嘔吐や食思不振といったさまざまな消化器症状を引き起こすことがあります。メトトレキサートを分割して服用することで症状が軽減されることがあります。またその他の消化器症状として、口内炎など粘膜が障害されることもあります。葉酸(フォリアミン®︎)を併用したり増量することにより対処できることがありますが、症状がひどく改善しない場合にはメトトレキサートを中止します。
 最近、メトトレキサートの皮下注射製剤が発売されました。注射薬なので胃や十二指腸といった消化管を通過せずに体内に吸収されます。そのため、これらの消化器症状が軽減されるのではないかと期待されています。
 

肝機能障害

 メトトレキサートの服用により肝機能障害が起きることがあり、特にASTやALTといった数値が上昇することがあります。肝機能障害が軽度の場合は自覚症状はありません。そのため定期的に血液検査でチェックを受けることが重要です。稀ですが重度の肝機能障害の時は倦怠感を自覚することがあります。倦怠感が強いときは早めに近くの医療機関かかかりつけ医に相談して下さい。
 

骨髄抑制(白血球減少、血小板減少、大球性貧血)

  メトトレキサートの服用により骨髄で作られる白血球やヘモグロビン、血小板が減少することがあります。これらは自覚症状に乏しく、何となく体調が優れないなどの自覚症状で検査して見て発見されるといったことがあります。骨髄抑制は、メトトレキサートの濃度上昇により引き起こされるとされています。高齢であることや腎機能障害があること、多数の薬剤を併用していることなどが骨髄抑制のリスクであるとされています。脱水などが原因で、体内のメトトレキサートの濃度が上昇してしまわないように注意が必要です。メトトレキサートを服用する際に体調が優れないなどの不調を感じたら、無理せず服用は控えて頂いて構いません。
 

間質性肺炎

  関節リウマチ患者さんでは、関節リウマチ自体による間質性肺炎や、免疫抑制治療中に感染症による肺炎など様々な肺炎を起こしますが、メトトレキサートをはじめとした薬剤による過敏反応でも間質性肺炎(MTX肺炎)を起こすことがあります。緊急の対応を要することもありますので、「次第に咳が増えてきた」「動くときに息切れが出るようになってきた」など亜急性〜慢性の咳や呼吸苦症状などで発症します。以前にはなかった咳や息苦しさ、発熱、倦怠感などが出現した際にはメトトレキサートの服用は一旦中止して、すぐに近くの医療機関か、かかりつけ医に相談してください。
 

リンパ増殖性疾患 

 関節リウマチ自体の合併症としてもリンパ腫が起きてしまうことがありますが、メトトレキサートをはじめとする免疫抑制剤治療中にリンパ節が腫れるリンパ腫(リンパ増殖性疾患)が起きることがあります。60%以上の例で薬剤を中止することでリンパ腫は消退するとされていますが、消退しない場合は精密検査や治療を要する場合があります。
 リンパ節は首や脇の下などに存在しますが、この薬剤に関連するリンパ増殖性疾患は、咽頭や扁桃、消化管、肺といったリンパ節以外の臓器でもリンパ組織の増殖を起こすことが多いということが知られています。注意すべき症状としてはリンパ節の腫れが典型ですが、リンパ節以外の皮膚や喉の腫れや、発熱・寝汗・体重減少といったこともリンパ腫では起こり得ます。メトトレキサート内服中にこれらの症状が出現した際にはかかりつけ医に相談してください。
 

メトトレキサート服用中に妊娠・授乳を希望される際の注意点

 関節リウマチ患者さんが妊娠や授乳をされる際には担当医とよく相談して共に計画を立てることが重要です。特に関節リウマチ患者さんが妊娠をされる際には、関節痛や腫脹といった疾患活動性が安定していることが良いとされています。可能な限りメトトレキサートをはじめとしたリウマチ治療薬などでまずは関節症状を安定させておくことが必要です。
 メトトレキサートを妊娠中に服用することは催奇形性があり行いません。そのためメトトレキサート服用中は避妊いただくようお願いします。妊娠を希望される場合には、一旦メトトレキサートを中止し、中止後1月経周期をあけてから妊活を行うことが推奨されています。授乳中も乳児に薬剤の影響が起こり得るため、メトトレキサート服用中は母乳栄養を控えて頂く、もしくはメトトレキサートから他の製剤に切り替えるなど、担当医とよく相談して計画を立てましょう。
 

メトトレキサート服用中のワクチン接種に関する注意点

関節リウマチ患者さんにおいて、不活化ワクチンの接種は推奨されておりますが、生ワクチンの接種は行いません。肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス、プレベナー)、インフルエンザワクチン、帯状疱疹ワクチン(シングリックス®️)は不活化ワクチンであり、接種が推奨されています。
新型コロナウイルスワクチンは、コロナウイルスの感染した際の重症化リスクから接種されることが推奨されています。ワクチンの副反応など安全性の観点から関節炎の状態が許せば接種後1〜2週間のメトトレキサート休薬が推奨されています(2022年8月時点)。
 

メトトレキサートの皮下注射が可能になりました。

IORRAニュースで皮下注射に関して取り上げました。以下のリンクをご参照ください。
 
杉谷 直大
2022 10月23日更新