2003年のレミケードの発売以来、生物学的製剤は関節リウマチ治療における重要な薬剤となっています。今では、先発品の生物学的製剤(先行バイオ医薬品)として、レミケード®、エンブレル®、ヒュミラ®、アクテムラ®、オレンシア®、 シンポニー®、 シムジア®、ケブザラ®、ナノゾラ®の9剤の生物学的製剤が、また、バイオ後続品として、インフリキシマブBS、エタネルセプトBS、アダリムマブBSの3剤バイオシミラーの使用が可能となっています。いずれの薬剤も、これまでのメトトレキサート(リウマトレックス®)などの抗リウマチ薬では充分に病勢を抑えきれなかった患者さんの多くで、その強力な効果が期待される薬剤です。しかし、生物学的製剤も全ての患者さんに有効なわけではありません。思ったほどの効果が得られなかった場合はどうすればよいのでしょうか。明確な指針はありませんが、現時点で以下のような選択肢が考えられます。
1)使用している生物学的製剤の増量、投与期間短縮
現時点で増量可能な生物学的製剤は限られています。標準使用量以上の増量が可能なのはレミケード®とシンポニー®のみであり、エンブレル®は週25mgの半量から開始した場合には標準使用量(週50mg)までの増量が可能ですが、それ以上の増量は認められていません。ヒュミラ®は他の抗リウマチ薬を併用していない場合のみ標準使用量(隔週40mg)の倍量までの増量が認められています。投与期間短縮が認められているのはレミケード®は、8週間隔から4週間隔までの短縮が、アクテムラ®は、2週間隔から1週間隔までの短縮が認められています。
2)他の生物学的製剤への変更
関節破壊を食い止めるためには、出来るだけ早く寛解状態になることが重要であることが分かっています。日本リウマチ学会による「関節リウマチ診療ガイドライン2020」の中にも明記されていますが、1剤目の生物学的製剤の有効性が乏しかった場合、2剤目以降は違う機序の生物学的製剤を選択することが勧められています。すなわち、1剤目にTNF阻害薬(レミケード®、エンブレル®、ヒュミラ®、シンポニー®、シムジア®、インフリキシマブBS、エタネルセプトBS、アダリムマブBS)を使用した場合は、2剤目として非TNF阻害薬であるIL-6阻害薬(アクテムラ®、ケブザラ®)か、T細胞選択的共刺激調整薬のオレンシア、またはJAK阻害薬を選択することが勧められています。また、1剤目に非TNF阻害薬を用いた場合には、1剤目がIL-6阻害薬であれば、2剤目として、TNF阻害薬・オレンシア・JAK阻害薬が、また、1剤目がオレンシアであれば、2剤目として、TNF阻害薬・IL-6阻害薬・JAK阻害薬を選択することが勧められています。
3)併用している抗リウマチ薬の追加、増量
使用している生物学的製剤でまずまずの効果は得られているものの、まだ少し症状が残っているような場合には、抗リウマチ薬の追加や併用している抗リウマチ薬の増量で充分な効果が得られることがあります。特にメトトレキサート(リウマトレックス®)の増量、タクロリムス(プログラフ®)やイグラチモド(ケアラム®)の追加や増量が有効であることが多くの報告から明らかになっています。
4)関節手術の併用
生物学的製剤を使用しても一つないしは少数の関節炎のみが残る場合には、手術によって病巣を除去することも効果的です。以前は滑膜を切除をしても、将来的な関節破壊は予防できないと考えられていました。しかし生物学的製剤の登場以後、生物学的製剤の効果が不充分な場合には、病巣である滑膜を取り除けば生物学的製剤が効くレベルにまで病勢が下がることもあることが報告されています。
文責 田中榮一
2023年10月11日更新